東洋医学 伝統鍼灸 清明院

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「四逆散」というお薬 9

2015.06.16

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これまでのお話

 


「四逆散」というお薬

「四逆散」というお薬 2  
「四逆散」というお薬 3

「四逆散」というお薬 4
「四逆散」というお薬 5
「四逆散」というお薬 6
「四逆散」というお薬 7
「四逆散」というお薬 8        参照

 

では続きいきます!

 

さて、本日はまた違う先生の見解を考えてみましょう。

 

本日はちょっと古い時代に戻って、宇津木昆台(1779-1848)先生です。

 


江戸後期を生きた、カミソリのようにキレる、素晴らしい頭脳を持った先生、という印象なんですが、長くなりそうなんで、この先生については、あとでちゃんと紹介します。

 


 

ともかく、宇津木先生の著書『古訓医伝』には、

「四逆散は、大柴胡湯の証の虚しているものである。」

と述べられており、その意味として、

「大柴胡湯は少陽病の実証で胃の気も実のもの、四逆散は少陽病の実証で、胃中に力が無くて、水邪が”胃の外”にあるもの。」

と述べ、

「そう考えれば当たらずとも遠からずだよん。」

と述べ、それをもとにさらに深く考えると、

「”左の”横腹、胸や脇に緊張が現れ、胃中は力が無い。気血水が滞って結胸のような感じで、場合によっては陰嚢や、腰の方にまで緊張が及び、縮こまってしまうものだ。」

と述べ、「左の腹」を強調し、四逆散が気血水の滞りであることを強調し、乾姜や附子などで陽気を補うことは不要である場合の処方だと強調しています。そして、

「これは血の滞りがメインであって、その周りに水がくっついたものである。」

と、これまた意味深いことを仰っております。

(・・・まあ、この言い方で、この処方における枳実の効果を説明しています。)

 


また、この先生の「左右」に対する考え方も、興味深いところです。

 


「四逆散」というお薬 8 で紹介した藤平先生は、四逆散の場合のお腹には

”左右差はない”

と強調していましたので、全く違う見解ですね。

 


竹下個人的には、陽気が伸びないんだから左に出てるはずだ、とか、四逆散だから左右差はないはず、とか、あまりそういう決めつけた診方、考え方に拘って人体を診るのは、

 

以前からですが、良くないんじゃないかな、と思っています。

 


こういうのは、鍼灸の場合特にあるんです。

 

右の経穴に出てるはず、左の経穴に出てるはず、ってやつね。

 

臨床上は、こういう「先入観」が非常に邪魔になる場合があるんです。

 

 

こういうのは、あくまでも結果から、帰納法的に推論するべきであって、演繹的に考えすぎるのはよくないと思いますね。

「演繹(えんえき)」と「帰納(きのう)」 参照

 


まあちょっとこれは、もちろんしっかりと基本を押さえた上での話にはなるけど。

 


この場合には左に出てる筈、とか、そういう考え方の根拠は陰陽論なんだけど、陰陽論だからこそ、やはり機械的に運用するべきではない。


「四逆散」というお薬 10  に続く

 

 

 

 

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「四逆散」というお薬 8

2015.06.15

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これまでのお話


「四逆散」というお薬

「四逆散」というお薬 2  
「四逆散」というお薬 3

「四逆散」というお薬 4
「四逆散」というお薬 5
「四逆散」というお薬 6
「四逆散」というお薬 7    参照

 

 

 

さて、今日ももう一人いきましょう。

 

・・・まあ、こんなことやってるとキリがないんだけど(笑)、いい機会なんで、僕が注目してる漢方家の紹介がてら、どんどんいきましょう。

 


今日は藤平健(ふじひらけん 1914-1997)先生です。

 


この先生も、昭和の漢方を支えた一人です。

 

藤平先生は、四国(香川県丸亀市)出身の先生であり、実は「四逆散」というお薬 5で紹介した奥田謙蔵先生のお弟子さんです。

 

大学生の頃に脊椎カリエスに罹り、それを奥田先生の漢方で治してもらったことから、弟子入りしたようですが、その後の活躍をみると、師匠に負けない、スゴイお弟子さんだと思います。

 


なんかこう、本を読んでいても、奥田先生と藤平先生からは、優しいというか、心が広いというか、大らかというか、そういう雰囲気を感じます。

湯本求真先生の反動なんでしょうかね。。。分かりませんが。(笑))

 


まあともかく、藤平先生の『傷寒論演習』には、

「四逆散は少陰病のところに書いてあるけど、実際は少陽病の薬で、使い方は大柴胡湯と小柴胡湯の中間あたりと考えていたが、使っていくうちにもっと虚証よりだと思うようになったよー。」

と述べ、

「傷寒論の条文には書いていないが、先輩方の言う通り、ノイローゼなどの精神科疾患に良いと考え、使い方としては、細かい症状よりも、腹診が重要だよー。」

と述べ、

「全体の腹力(腹部の緊張)が中等度、胸脇苦満(肋骨下の緊張)が”左右差なく”中等度、心下痞鞕(みぞおちの緊張)が中等度、腹直筋の緊張が強い、

 

これらが揃えば、四逆散の腹と考えていいよー。」

と述べ、お弟子さんとの対話の中で、

「四逆散には水を捌く生薬は入っておらず、この場合の水邪は二次的なものと考えていいよー。」

とし、真武湯との鑑別や、芍薬甘草湯との違いに注目しているようです。

 

(抜粋意訳 by竹下)

 

因みに個人的には最後の部分、重要かな、と思います。

 

 

真武湯、四逆湯とだけでなく、芍薬甘草湯と四逆散を比較するのは、四逆散が、芍薬甘草湯に柴胡・枳実を入れた方剤、とみることも出来るからですね。

 

 

 

 

・・・とまあ、全体としてはそんなに個性的なことは言っていないが、大塚敬節先生、矢数道明先生と同じく、腹診に着眼したことと、四逆散の胸脇苦満には左右差が無いとか、

 

自身の経験から、独特の見解も少し述べておられます。

 


大塚先生、矢数先生の見解については、

「四逆散」というお薬 4  
「四逆散」というお薬 6
     参照

 

個人的には、少陽病の薬であるにもかかわらず、左右差が出ない、ということを強調しておられるのは、面白いなあ、と思ったりします。

 

あくまでも少陽「経」ではなく、内外の不和だ、というメッセージなんでしょうかね。

 

(単に経験則かもしれませんが、クリニカルパールではないかと思います。)

「四逆散」というお薬 9 に続く

 

 

 

 

 

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「四逆散」というお薬 7

2015.06.14

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これまでのお話

 

「四逆散」というお薬
「四逆散」というお薬 2  
「四逆散」というお薬 3

「四逆散」というお薬 4
「四逆散」というお薬 5
「四逆散」というお薬 6    参照

 

 

さて本日も、また別の先生のご見解をみてみましょう。

 


今日は荒木性次(あらきしょうじ 1896-1973)先生です。

 

因みに号は荒木卜庵(あらきぼくあん)先生とも言います。

(この呼び名の方が有名かもしれません。)

この先生も、昭和を生きた、非常に有名な先生です。

 


実は私は、この先生の流れをくんだ先生と、ちょっとしたご縁がありまして、今ではその先生の漢方薬局に、清明院の患者さんをよく紹介させていただく間柄だったりします。(笑)

 

また、僕が尊敬している鍼の先輩も、この先生の薫陶を受けた先生から『傷寒論』の基本を学んだそうです。

 

そんなワケで、やや遠いけど、不思議な御縁を感じる荒木先生の『方術説話』に、このように書いてあります。

 


「四逆(四肢逆冷)する者には3通りあります。

1つ目は表面の陽気が弱っているもの、

2つ目は陽気が内(裏)に籠っちゃって外に伸びないもの、

3つ目は表裏の中間につっかえて、陽気が伸びないものです。

四逆散の場合は3つ目のパターンです。」

と述べ(1パターン加えた!)、そして、その籠った熱のことを”少陰の熱”と表現し、

「それ(少陰の熱)が肺に影響すれば、そこに水気が集まり咳となり、心に影響すれば動悸、肺腎両方に影響すれば小便不利、

腹中に影響すれば腹痛になり、腸中に影響すれば下痢となり、もともと腸の動きが悪い人であれば渋り腹になる。」

と述べています。

 


そして、上記のような診立てで、四逆散を使って、効果がイマイチの場合に、四逆散にさらにどんな生薬を加えたらいいかについても、丁寧に解説してくれております。

 

そして最後に、

「本章は少陰病血虚裏熱より四逆を生じたものの治し方を述べた章です。」

と締めくくっています。

 


なるほど、「表と裏の間に」籠る、ね。

 


裏に籠る、というのとはニュアンスが明確に違うのです。

(起こる現象も違う。)

 

咳や動悸など、上に出たり、下痢や腹痛、渋り腹など、下に出たりすることの、上手い説明になっていると思います。

 

そして”少陰の熱”とか、”少陰病血虚裏熱”という表現、これもサラッと言うけど、奥の深い説明だと思います。

 


他の先生のように、肝鬱+湿邪、とか、肝鬱+水邪とか脾胃の虚、とかで説明するのではなく、あくまでも

”熱(通じなくなった陽気)がどこに影響するか、そして、そこに集まる水気”

で論じる。

 


一つの立派なお立場だと思います。

 


・・・いやー、みんなスゲエなー (゜o゜)

 

「四逆散」というお薬 8  に続く

 

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「四逆散」というお薬 6

2015.06.13

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これまでのお話

 


「四逆散」というお薬

「四逆散」というお薬 2  
「四逆散」というお薬 3

「四逆散」というお薬 4
「四逆散」というお薬 5    参照

 

 

さて今日も、四逆散に関する、別の先生のご意見。

 


今日は矢数道明(やかずどうめい 1905-2002)先生です。

この先生も、大塚敬節先生奥田謙蔵先生と並んで、1905-2002の、実に96年間を生きた、近代を代表する漢方家の一人です。

 

亡くなる前年の、95歳まで外来診療を続けておられたことは有名です。

(スゲエ!!(;゚Д゚))

 

この先生の診療所(温知堂)は清明院のすぐ近く、新宿にあり、現在もご遺族によって引き継がれております。

 

この先生の師匠である森道伯先生(1867-1931)も、後世派の一派である一貫堂医学の創設者として、たいへん有名です。

 

この森先生も素晴らしい先生なので、そのうち紹介したいと思います。

(みんな本当にスゴイので、紹介し始めたらキリがないですな。。。(苦笑))

 


 

まあともかく、矢数先生はその著書『漢方処方解説』の中で、

「四逆散は大柴胡湯と小柴胡湯の中間のものに用いる。」

と述べ、

「大柴胡湯よりも虚証で、熱状が少なく、肋骨下の緊張がやや弱く、小柴胡湯よりは少し実証で、お腹は肋骨下の緊張、腹直筋の緊張が中心で、

 

腹直筋の緊張は臍の周囲まで及び、手足のキンキンに冷えてる者や、癇の昂ぶる神経過敏症の者に用いる。」

と述べ、臓腑では

「肝の臓の実と、脾胃がやや虚。」

と述べ、たいへん応用範囲が広い薬であることを教えています。

 


まあ、矢数先生の解説の書き方としては、四逆散大柴胡湯の変方だと述べた、和田東郭先生浅田宗伯先生の見解を尊重しつつ、近代の湯本求真先生や龍野一雄先生の論を引いて、

 

大柴胡湯四逆散の使い分け方、とりわけ、腹診における見分け方に重きを置いた、解説の仕方をしております。

 


この観点も、また重要です。

 


大塚先生の見解に、少し補足を加えた、という感じですね。

「四逆散」というお薬 7  に続く

 

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「四逆散」というお薬 5

2015.06.12

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これまでのお話

 


「四逆散」というお薬

「四逆散」というお薬 2  
「四逆散」というお薬 3

「四逆散」というお薬 4    参照

 


では続きいきます!

 

今日もまた、違う先生の見解を見てみましょう。

 


近代の有名な漢方家の一人である奥田謙蔵先生(1884-1961)『傷寒論講義』には、

 


「四逆散証のメカニズムは、もともと湿邪を持っている人が病に侵されて熱を生じ、その熱が内に籠って、気が四肢に達さないので四肢が冷える。

だから、四逆散の場合の下痢は、臭いの無い水様の下痢ではなく、脈が弱々しくて途切れそうということもない。

咳、動悸、小便出にくい、腹痛、下痢、渋り腹などの症状は、うちに水邪が停滞し、上下に動揺していることから起こる。

陽気が弱って四肢が冷える四逆湯とは真逆だよ。」

と書いてあります。

(抜粋要約 by 竹下)

 

奥田謙蔵先生は、もともと四国(徳島)の先生で、吉益流の古方派の考え方をベースにした先生です。


奥田先生は、傷寒論を非常に細かく読み込んだ先生として有名です。

 

8歳年上に湯本求真(1876-1941)先生という、超ビッグな先生がおりまして、この湯本先生と、ずいぶん親しかったようです。

湯本求真先生については、和田啓十郎先生とともに、特別な人物なんで、いずれ書きましょう。)

 


まあ、この先生のように、明治政府が叩き潰した漢方医学の流れを、どうにかこうにか途絶えさせずに継続させた功労者たちが、歴史の陰にはちゃーんとおります。

 


東洋医学が古臭い、迷信めいたものと言われてバカにされ、国にまで保護、重用されない立場となり、一番厳しい時代だったはずです。

 

その時代の先生たちが、現場で、肌感覚として感じていたであろう、悔しさとか、そういう思いを想像すると、心、動かされますね。

 


 

・・・まあともかく、ここでは、四逆散に関して、奥田先生は四逆散証になる人がもともと持っている「湿邪」に着眼しているようです。

 

面白い、そして重要な観点だと思います。

 

体質素因としての湿邪が無いと、同じように肝鬱と言っても、四逆散のような形をとりにくい、という指摘でしょう。

 

「四逆散」というお薬 6   に続く

 

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「四逆散」というお薬 4

2015.06.11

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これまでのお話


「四逆散」というお薬

「四逆散」というお薬 2  
「四逆散」というお薬 3      
参照

 

今日は、四逆散に関して、昭和の代表的な漢方医の一人である大塚敬節先生(1900-1980)の見解を聞いてみましょう。

大塚先生は、著書『傷寒論解説』の中で、四逆散のことを、康平本傷寒論(※)の記載に倣って”回逆散(かいぎゃくさん)”と呼び、

ここに書かれていることは、前段の玄武湯、通脈回逆湯の流れからすると錯簡ではないか、という意見を述べております。

 

(※)・・・康平本傷寒論(こうへいぼんしょうかんろん)は、昭和11年の秋に、大塚敬節先生が東大正門前の井上書店で見つけた、傷寒論のテキストで、

 

奥書に「康平三年(1060年)二月十七日 侍医丹波雅忠」とあることによって、“康平本”“康平傷寒論”の名で知られ、一説には空海が長安にて筆写して持ち帰ったものともいう。

 

大塚先生は、康平本こそは宋代以前のものであり、現存する最古の『傷寒論』であると訴えたが、偽書であるという説も根強い。

 

 

 


・・・まあ、四逆散の呼び名が本当は回逆散なんじゃないか、とか、ここに書かれていることが錯簡なんじゃないかとか、どれが現存する最古の本だとか、

 

正~直、んなこたぁどーでもいいんですよ、我々臨床家にとっては。(笑)

 


臨床現場で、患者さんに対して、その方剤が使えるかどうか、これに尽きるし、大体からして、僕ら鍼灸師は鍼でやるわけだから、四逆散の考え方が、

 

果たして鍼灸臨床で応用的に使えるかどうか、ここにしか興味なしなのです。

 

まあともかく、大塚先生は、

「臨床では、傷寒論に書かれているような症状ではなく、腹診をよく診て処方するとよい。肋骨下の緊張、腹直筋の過緊張がはっきりと表れているものに使うといい。」

と述べて下さっております。

 

大塚先生はこのように、「柴胡」という生薬を使ったいくつかの方剤を、患者さんの腹証に応じて使い分けていたようです。

(これはテーマからずれるので、いつか気が向いたら書きましょう。)

 

「柴胡」の使い方の上手い先生が、漢方薬の使い方のうまい先生、という話は、以前にしました。

「柴胡桂枝湯証(さいこけいしとうしょう)」という状態 参照

 

まあ、症状はともかくとして、腹の状態で見分ける、というのも、臨床家にとっては非常に重要な指摘ではあります。

 

患者さんは自分の主観に基づいて、症状その他を述べますので、それを全くの鵜呑みにしてしまうと、うまくいかない場合があります。

 

そんな時、体表観察に助けられます。

 

身体はウソつかない、ってやつね。

 

「四逆散」というお薬 5   に続く

 

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「四逆散」というお薬 3

2015.06.10

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これまでのお話


「四逆散」というお薬

「四逆散」というお薬 2       参照

 

では続きいきます!!

 

ここまでで、四逆散という超有名な薬に関して、和田東郭、浅田宗伯の見解を示しました。

 

さて今日は、また違う人の見解を見てみましょう。

 

今日は目黒道琢(めぐろどうたく 1739-1798)先生です。

 

まあこの先生は、和田東郭荻野元凱と同時代の東京(江戸)にいた、超秀才、研究熱心バリバリ!みたいな先生です。

 


和田東郭という人物
荻野元凱という人物   参照

 


彼が言うには、

四逆散の状態とは、みぞおちが常に痞え、両肋骨下が、ガチガチに張って凝り、左脇腹が特に甚だしく、みぞおちの凝りがきつすぎて、

胸の中までも痞え感、膨満感を感じ、何となく胸中が不快で怒りっぽく、或いは肩とか背中が張って、或いは背中のみぞおちの裏あたりが張ったりします。

これらは、肝鬱(肝の臓の機能亢進)の症状です。

こういうものに、四逆散を使うといいです。

最近、肝鬱の人が多いので、四逆散の合う人が極めて多いです。

和田家(和田東郭の一派の事と思われる)では、慢性症状の病人を百人治療すれば、五、六十人は此の方に加減して用いると、

弟子が言っています。

水分の動きが強い証は、山薬、生地黄を入れると有効という。

私も、よく四逆散を用いて、いい成果が上がってます。

また、疝気(急性の腹痛)にも、四逆散の適応症が多いです。

『餐英館(さんえいかん)療治雑話』より抜粋意訳 by竹下

 


・・・だそうです。

 


同年代(5つ下)の和田東郭のやり方を参考にしているあたり、この時代は和田東郭がかなりリード的な存在だったようですね。

 

肝鬱(精神的なストレスによって、肝の蔵の機能が更新している病態)は、現代人にも非常によく見受けられる病態です。

 

これに対して、応用的に四逆散を使っていたのですね。

 

しかし、和田東郭の患者100人中5,60人は四逆散加減だったとは、興味深いところです。

 

江戸の平和に思える町民文化は、意外と人間関係によるストレス社会だったのでしょうかね。。。(苦笑)

 

肩こりと東洋医学 7   参照

 

「四逆散」というお薬 4   に続く

 

 

 

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「四逆散」というお薬 2

2015.06.09

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前回のお話


「四逆散」というお薬 
   
参照

 

この「四逆散」という薬を何でこんなにフィーチャーするかというと、蓮風先生の話の中によく出てくるんですね。

 


蓮風先生の実技デモなんかで、刺鍼しながら、

「この鍼は四逆散の効果を狙っています。」

とか、よく出てくるんです。

 

そして、私自身の臨床上でも、そういう考えで鍼をすることが少なくない。

 


ですので、この薬について深い理解をしておくことは重要です。

 

・・・という訳で、前回は和田東郭先生の解釈と症例を紹介しましたので、今日は他の先生の見解を見てみましょう。

 


現代でもコンビニで売ってる”浅田飴”で有名な浅田宗伯先生(1815-1894)は、このように述べています。

 

『傷寒論』の四逆散の条文は、熱厥(熱がこもったことによって気が巡らない状態)の軽いやつのことを言っています。

四逆散の状態は、真武湯の状態に似ています。

『傷寒論』の中の、四逆散が出てくる章である、「弁少陰病脉証并治」というところは、少陰病の色々なパターンを示しています。

熱邪が内に籠って、うまく発散出来ずに、結果的に四肢が冷えるときは、水気までもが籠ってしまって、気血の滞りを助長するので、

下痢になったり、咳が出たり、動悸が出たり、小便が出にくくなったり、腹痛になったり、渋り腹になったりするわけです。

ここで、咳とか動悸とか小便の症状は真武湯に似ています。

腹痛とか下痢は四逆湯に似ています。

ただ、渋り腹の症状のみは、真武湯とか四逆湯の状態では出ない症状なんで、渋り腹があれば、熱厥と考え、

四逆散だと判断していいのです!

考えてみると、四逆散とは四逆湯と同じく、手足逆冷を治す薬です。

ただし、四逆湯は寒厥を治し、四逆散は熱厥を治す。

同じ四肢逆冷でも、その原因が違う時に使い分けるのです。

そして、四逆散は大柴胡湯の応用バージョンなんで、邪を散らし、気を通じさせる効果がメインなのです。

『傷寒論識』より抜粋意訳 by竹下

と、長々と述べております。(笑)

 


まあ、四逆散は真武湯とか四逆湯とかと似てるけど、原因が違うんだから、誤診するなよ!ってことです。

 


四逆散は熱、四逆湯は冷えね。

 

四逆散は気の停滞の実、四逆湯は陽気の虚と。

 


「四逆散」というお薬 3   
に続く。

 

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「四逆散」というお薬

2015.06.08

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こないだ、

和田東郭という人物

という記事を書きました。

 

そこに出てきた、有名なお薬である「四逆散」

 


今日はこの薬について、まとめておきます。

 


四逆散が歴史上に初めて登場したのは『傷寒論』です。

『傷寒論(しょうかんろん)』という本 参照

 

ここに、柴胡、芍薬、枳実、甘草という4種類の生薬を配合した漢方薬として登場します。

 

『傷寒雑病論』【弁少陰病脉証并治 328条】
 
少陰病.四逆.其人或欬.或悸.或小便不利.或腹中痛.或泄利下重者.四逆散主之.

 

効能は上記にある通りなんですが(笑)、まあ簡単にいうと、カゼをこじらせたやつで、手足がキンキンに冷えて、咳したり、動悸がしたり、小便が出にくかったり、

 

腹痛があったり、下痢したり、渋り腹(しきりに便意を催すのに排便が ごく少量で、すぐまた行きたくなる症状のこと。)だったりする者は、

 

四逆散を飲むとバッチリ治るよ、と書いてあります。

 


四逆散の”四逆”というのは”四肢逆冷”の略といわれ、手足が非常に冷える症状のことを言っています。

 


ここで重要なのは、病的な冷えには大きく分けると2種類あって、


1.温める力自体がないもの(陽虚、気虚など)

2.温める力はあっても、何らかの阻害要因があり、それが万遍なく全身に及ばないもの(陰邪を中心とした邪気実によるものや気滞など)


が考えられる、ということです。

 


四逆散の場合の手足の冷えは、2.の場合なんです。

 


これについて、和田東郭先生は、

「四逆散というのは、大柴胡湯の応用バージョンです。

腹はみぞおちとか肋骨の下の部分が張って、その凝りが胸にも及ぶ位のもので、両わき腹も強く張るもの。

でも熱実じゃないから大黄、黄芩は使わず、ただみぞおちとか、両肋骨下を緩めることを主とする薬だよ。

全体の腹形、みぞおち、肋骨下の状態をよく診て、それらに悪い反応があって、なおかつ手足がキンキンに冷えるものは、

この薬にて治すといいよー。

本当に温める力が無くなった、重篤な四肢の冷えとは、脈も腹なども、全然違うよーん。」  

(『蕉窓方意解』より抜粋意訳 by竹下)

 


と、述べておられ、また症例として、

 

「ある女性が、産後、意識もうろうとする症状が出た。

色々あん摩や薬などを試したけど治らない。

診るとみぞおちから肋骨の下から脇腹まで、キツク張って、強くこれを押しても弾力が無く、動悸もなにもなく、吐きそうになる感じという。

その人に、四逆散に生地黄、紅花を加えて飲ませてみたら著効したよん。

この紅花、生地黄は、瘀血に対して使ったのではなく、甘味の四逆散に組み合わせて、肝火の上逆を潤し緩める狙いで使ったよーん。」


『蕉窓雑話』より抜粋意訳 by竹下 

 

とも述べて、四逆散の応用的な使い方も示してくれています。

 


「四逆散」というお薬 2  に続く。

 

 

 

 

 

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病院での漢方薬の使われ方(抑肝散) その4

2014.01.19

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これまでのお話

 


病院での漢方薬の使われ方
 
病院での漢方薬の使われ方 その2
 
病院での漢方薬の使われ方 その3
    参照


 

ここまで、僕が病院で見た、とあるワンシーンから、現代の精神科において非常によく使われる「抑肝散」という漢方薬に触れつつ、

病院での漢方薬、東洋医学の使われ方をお話してきました。

 

それによって発生するであろう過ちについても指摘しました。

 

漢方薬を使うなら、その患者さん一人一人に合わせて弁証し、表裏寒熱虚実、五藏六府の不調などを明確にした上で、徹頭徹尾、東洋医学の考え方に基づいて処方しなくては、

 

せっかくの漢方薬も、真価を発揮できないと「僕は」思います。

 

この辺の話は、以前、蓮風先生のブログにも出てきています。

蓮風先生のブログ「小柴胡湯が犯人か?」 参照

 

・・・ただ、僕が非常に信頼していた、とある漢方の先生(故人)が、亡くなる寸前に、僕がそういう話をした時、

「イヤー竹下君、そうは言っても、病院で当たり前に漢方薬が処方されるとかさー、一部保険がきくようになったとかさー、テレビで漢方薬のCMがやっているとかさー、

それだけでも本当にスゴイことなんだよ。。。」

と仰っておりました。

 

この一言は、非常に印象的でした。

 

その先生は数年前に80数歳で亡くなっていますから、その先生の若い頃、今から約50年ほど前は、東洋医学、漢方医学に対する世間の目は、

もっともっと全然厳しかったのでしょう。

 

医療として認められてすらおらず、単なる迷信だったり、時代遅れの歴史の遺物のような扱いを受けていたんだろうと思います。

 

 

その先生も若い時分に漢方で生きていくと言ったら、周りから大反対されたそうです。

 

 

それから比べると、現状はまだいい方なのかなあ、とも思ったりもします。

 

まあ、いずれにせよ、そうは言っても現状は不満だらけなんですが(苦笑)、歴史的に考えると、どうやら上り調子であるようなので、

もっともっと現場から盛り上げていこうかな、と思っています。

 

てか、それしかないね。

 

 

・・・ん~、ま、いったん完結。

 

 

 

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