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これまでのお話・・・
「脾」って何ですか?(その9)
「胃」って何ですか?
「胃」って何ですか?(その2)
「胃」って何ですか?(その3)
「胃」って何ですか?(その4)
「胃」って何ですか?(その5)
「胃」って何ですか?(その6)
「胃」って何ですか?(その7)
「胃」って何ですか?(その8)
「胃」って何ですか?(その9)
これまで「胃の腑」に関するお話を「脾の臓」とも絡めながら、
・機能
・形態
・症状
なんかに注目しながら、具体例も挙げて話をすすめてきました。
・・・まあ、このシリーズは専門家に向けたものではないので、概要としては大体のことは述べてきたかな、と思います。
なので「胃ってなんですか?」シリーズは、ここらで一旦完結しようと思います。
最後に一つ、ついこの間、患者さんを診ていて、
「あー、これはまずいなー。」
と思ったことがあったので、お伝えしておきます。
☆「足三里」の危険性
その患者さんは、80代の女性です。
以前から診ていて、経過もよく、安心していたのですが、最近妙に元気がなく、脈、舌、体表観察所見も「脾胃」の反応所見がよくないのが気になっていました。
そんなある日、
「先生、最近食事の後、気持ちが悪くなるんです。」
と、その患者さんは訴えました。
詳しく聞くと、のどもよく乾く、便も出にくい、食欲も落ちてきている、体がだるいとおっしゃいました。
患者さんは、
「夏バテかなあ?」
とおっしゃったが、去年はどうだったか、これまではこういうことはあったかと聞いてみると、
「去年、その前はこんなことはなかった。」
とのこと。
さらによくよく聞いていくと、
「先生に鍼してもらってから調子がいいので、もっと調子よくなりたいと思って、足三里にここ最近毎日お灸をしている。」
とのこと。
「・・・それだ!!」
と思い、すぐに中止させたところ、上記の症状は消失。事なきを得た、ということがありました。
・・・ツボの中には、たまに、誰でも知っているような超有名選手がいます。
「足の三里」というツボもその一つです。
↑↑これです。
この「足三里」というツボは、よく「長生きの灸」とか言って、お灸をすると元気で長生きするとか、足腰が強くなるとか言われ、昔から有名です。
テレビや、一部の雑誌や書籍なんかで紹介されてたりすることも少なくありません。
・・・コレ、とんでもない話です。
こういう言い方は、迷信もいいとこです。
足三里にお灸をするだけで誰もが例外なく足腰が強く、元気で長生きするんだったら、誰も苦労しやしません。
確かに「足三里」は、上手に使えば大きな効果を得ることが出来るツボではあります。
しかしそれは、確かな東洋医学的な診断に基づいていて、なおかつ適正な術(鍼か灸か)で、適正な刺激量での処方であった場合にのみ、言えることです。
当然ながら、治療に使える、ということは、逆に言うと間違った使い方をすれば悪化させることもある、ということです。
上記の患者さんは、もともと「胃の腑」に熱がこもりやすいタイプの患者さんでした。
本来ならばその熱を冷ます治療、養生法を行い、どんどん「胃熱」を発散、排出させるように持っていかなくてはなりません。
しかし、この患者さんがやった「足三里にお灸」という処置は、どちらかというと「胃の腑」を温める治療になります。
つまり逆です。
熱に熱を足してしまっている訳です。
しかも、自分で見よう見まねで適当にツボの位置を決めているため、時には右のみが効いたり、左のみが効いたり、効果にばらつきがある上に、
その的確な評価も出来ないため、左右のアンバランスなんかも引き起こしやすいです。
高齢者が左右のアンバランスを起こし、それがあまりにもきつくなると、たいがい転倒します。
歩行姿勢が左右アンバランスで、不安定になるからです。
高齢者にとっては、転倒から骨折でもしたら、寝たきり状態にもなりかねません。
そうなってから泣いたってわめいたって遅いんです。
東洋医学というのは、誰でも簡単に使いこなせるもんじゃありません。
僕も場合によっては、遠方でたまにしか治療に来れない患者さんなど、自宅でお灸を据えてもらうこともありますが、その場合は、安全かつ確実なツボ以外は選びません。
・・・まあー、これだけ「医学だ、医学だ」と叫んでも、それはごく一部の人にしか伝わりません。
甘く見られることの方が多いです。
でも、それでも僕は叫ぶことをやめません。
だって「医学」だからです。
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2010.08.01
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これまでのお話・・・
「胃」って何ですか?
「胃」って何ですか?(その2)
「胃」って何ですか?(その3)
「胃」って何ですか?(その4)
「胃」って何ですか?(その5)
「胃」って何ですか?(その6)
「胃」って何ですか?(その7)
☆「胃」と「熱」と「狂」(続編)
今日のお話は、ちょっと難しいかもしれないけど、大変興味深い部分でもありますので、続き、いきます!
以前、「脾」って何ですか?(その5)にて、”脾は湿気が嫌い”というお話をしました。
その時、「脾はもともと湿っている臓だから、過剰な湿気を嫌うのだ」と書きました。
また、「胃はもともと乾いている腑だ」とも言いました。
・・・ということは、”胃は熱が嫌い”という考え方が、当然あります。
なぜならば、よけい乾いちゃうからです。(笑)
(ここには、実は難しいお話(・・というか意味)がありますが、割愛します。(笑))
つまり「脾胃」は、人体のど真ん中である「中焦」に存在し、かたや湿り(脾)、かたや乾き(胃)、乾と湿のバランスをも、とってくれている訳です。
「胃」って何ですか?(その5)で述べたように、「脾胃」は全身の気血の「昇降のバランサー」でありながら、「乾湿のバランサー」としても一役買っている訳ですネ。
(カッチョイー!)
・・・東洋医学では、体内、および体外の過剰な”熱”のことを「邪熱(じゃねつ)」と言い、様々な症状、病気を引き起こすもとと考えます。
そして特に「胃の腑」が過剰に熱を持つと、それを「胃熱(いねつ)」と呼び、分かりやすいところでは、強いのどの渇き、あるいは食べても食べてもすぐに腹が減る、
暑さを極端に嫌がる、などの症状の原因になります。
”非”生理的な「邪熱」、および生理的な「熱」というのは、通常、どんどん体外に発散しなくては、正常な体の状態を保てません。
大便なり、小便なり、汗なりで、です。
「熱」がうまく発散、排泄出来ずに、どんどん「胃」に籠ると、徐々にマズイことが起こってきます。
前述のような症状はもちろん、マグマのようにブスブスと籠った熱は、やがてまるで”火が付いた”かのように、突然、一気に激しく「上焦」に向かって突きあげます。
これを東洋医学では「胃火(いか)」と言います。
(そのまんまだネ。)
そして突き上げた先の”上焦”には、「心」と「肺」という臓が存在します。このうち、特に「心」が「胃火」の影響を強く受けると、狂乱、錯乱状態になることがあります。
言わば、燃え盛る「胃火」が、「心の臓」に燃え移ってしまった、という状況です。
「心の臓」が蔵している「神(しん)」というものが、”顕在意識を清明たらしめているもの”という話は以前「心」って何ですか?(その6)に書きました。
その働きが侵されるために、正常な判断を失い、まるで”もののけ”でも憑いたかのように叫び、わめき、暴れ出します。
また、体内の邪熱が極まっているために暑くてしょうがなく、衣服を脱ぎ捨てる、というような状況となります。
まさに、前回のブログで紹介した事件のような状況、となる訳です。
しかもあの事件の場合は「朝8時ごろ」という時間帯にも大きな意味があると思いますが、それの解説は長くなるので、またそのうち致しましょう。(笑)
しかしまあ、あの事件の女性の発言から考えるに、おそらく悪い男に弄ばれたとか、そういうことがあった後のことでしょうから、もしそうだとすれば、
ある意味、言ってることにスジは通っています。
また、パンツ1枚の姿だった、とか、実際にベランダから飛び降りはしなかった、ということは、少しは理性が残っていたのかも知れません。
そういう意味ではそれほど強烈な「胃火」ではなかったか、「心神」がそこまでは弱っていなかったのでは、と考えられます。
まあ、いずれにせよ、ああなる前に治療させてほしかったナー、近いんだし・・・。
という感じです・・・。
次回に続く
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2010.07.31
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これまでのお話・・・
「胃」って何ですか?
「胃」って何ですか?(その2)
「胃」って何ですか?(その3)
「胃」って何ですか?(その4)
「胃」って何ですか?(その5)
「胃」って何ですか?(その6)
少し涼しくなったと思ったら、また猛暑。
・・・でも個人的には、猛暑って、ちょっと好きです。
(笑・・・溶けそうにはなりますがネ。)
僕は、育ちは日本一暑い群馬県前橋市なんですが、生まれは静岡県伊東市です。
まあ、海周辺で生まれ、山周辺で育ったわけです。
この時期になると、海の近くで生まれた血が騒ぐのか、妙に気分が高揚します。(笑)
フジツボ、イソギンチャク、ウミウシ・・・ああ、なつかしい・・・。
(見た目キモいのばっかですが。(笑))
・・・まあそれはさておき、ついこないだ、「胃」の話をする上で、とても興味深い事件がありましたね。
ニュースの記事というのはネットからすぐに削除されてしまいますので、ここに概要を述べておきますが、清明院からさほど遠くない、渋谷区円山町で、28日、朝8時ごろ、パンツ1枚の半裸の女性が、
「女をナメんじゃねえ~!!」
とか、
「電話して来い~!!」
とか叫びながら、マンションのベランダから身を乗り出して絶叫していたそうです。
一時は飛び降りを警戒して、消防隊も駆けつけ、あたりは騒然となったそうですが、部屋に入った警察がその女性を取り押さえて一件落着、という事件です。
今日はこの出来事を、東洋医学的に考えてみましょう。
☆「胃」と「熱」と「狂」
東洋医学では、上述のような精神錯乱の病を「狂証(きょうしょう)」と呼び、2500年前に著されたとされる東洋医学の聖典、
『黄帝内経(こうていだいけい)』
の中にはすでに「狂証」の分類、発症機序、治療法まで述べられています。
(専門家の先生方、『黄帝内経霊枢』癲狂篇(22)です。ココ、実におもろい。要チェックです。)
また今から約2000年近く前、中国は後漢の時代、張仲景(ちょうちゅうけい)という大名医がいました。
彼が著したとされる、
『傷寒雑病論(しょうかんざつびょうろん)』
という書物は、この現代でも、漢方薬で治療にあたる先生方や、我々鍼灸師にとっても、これまた東洋医学の”聖典”の一つとして、不滅の輝きを放っています。
そこにもすでに、こういった病の症状や所見、治療法が書いてあります。
(専門家の先生方、陽明病篇、特に大承気湯、桃核承気湯の条文です。これまた示唆に富んでるよ~。)
それらを繙くと、結局、こういう「狂証」の治療の最終的な中心は、なんと!いずれも「脾胃」なのであります。
特に上述のような激しい錯乱状態を示すようなものに関しては「脾胃」の中でも特に「胃」が治療対象です。
そして、この考え方は現在でも支持されています。
江戸時代の医師の文献なんかには、実際の症例なんかも出てます。
僕も、何人かの先輩から、実際に鍼や漢方薬で治療した症例の話を聞いたことがあります。
また僕自身も、これに近い症例を経験したことがあります。
・・・まあとにかく、なぜ「胃」がおかしくなるとこういう症状が出るのでしょうか。
ちょっと長くなったので続きは次回に!(笑)
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2010.07.29
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「胃」って何ですか?
「胃」って何ですか?(その2)
「胃」って何ですか?(その3)
「胃」って何ですか?(その4)
「胃」って何ですか?(その5)
☆「胃の気」について
これまでの、「脾」と「胃」についてのお話を読んで下さった方には、いかに東洋医学が「脾胃」というものを重要視しているか、少しは伝わったんじゃないかと思います。
結局、人間が、どんな状態であれ「生きている」ということは、「脾胃」の働きがまだある、ということを示しています。
なぜなら、東洋医学では、人間が健康に生きる上で欠かせないのは「気血」が正常に全身を巡っていること、な訳ですが、この「気血」そのものの生産工場である「脾胃」がダメになっちゃったら、
どんどん体は弱っていく、と考えるからです。
そして生命を維持できるだけの「気血」の絶対量に及ばなくなったならば、人間は死んでしまいます。
言わば、川の水源が枯れてしまうようなもんです。
この「脾胃」が気血生産の大本(おおもと)として働いている、全身の活動を正常たらしめている、根源的な働きのことを東洋医学では「胃の気」と呼びます。
そしてその「胃の気」の盛衰をうかがい知るのに、専門家の間で最もよく知られた診察法が「脈診」であります。
脈診については以前、「脈」で何が分かるの?に少しだけ書きましたが、脈から得られる情報というのは他にもたくさんあるのですが、中でも重要なのが、
「胃の気」の盛衰を知る、
ということです。
(一社)北辰会では、この胃の気の盛衰を専一としてうかがう脈診法を「胃の気の脈診」と呼んで臨床応用しており、脈診というものは、色々な情報を与えてくれるけれども、
結局、最終的には「胃の気」の盛衰を診るものである、と位置付けています。
これはなにも、北辰会独自の、オリジナルの考え方という訳ではなく、中国や日本の歴代の医家たちも、みんな重要視した考え方です。
当然、現代においても、北辰会以外の流派の先生方も重要視しておられる部分です。
僕も長いこと、往診での鍼灸治療をやらせていただいておりますので、これまであらゆる重病、難病の患者さんを診る機会をいただいておりますが、
やはり最終的には「胃の気」の存亡を診ていきます。
鍼をして脈がどう変化するか、場合によっては一口水を飲んでいただいて脈がどう変化するか、を指標にしていきます。
これが良性の変化を示せば「胃の気あり」、悪化するようであれば「胃の気の衰絶」と考え、予後は不良、場合によっては死に至る、と考えます。
俗によく、
「口からモノが食えなくなったらもう駄目だ。」
なんて言われることがありますが、これはある意味では当たっていると思います。
点滴や胃ろうのみで、”元気に”生きている人はいません。
「長生き」というのは、単純に生存時間が長いこと”のみ”を言うのでしょうか。
次回に続く
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2010.07.28
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これまでのお話・・・
「胃」って何ですか?
「胃」って何ですか?(その2)
「胃」って何ですか?(その3)
「胃」って何ですか?(その4)
・・・けっこう空いちゃいましたが、「胃」のお話、続けていきましょう。
☆脾は上げ、胃は下げる(続編)
「脾の臓」というのは、飲食物から取り出した「気血のもと」を、上焦(胸部から上の部分)に持ち上げます。
そこから後の流れについては、「肺」を解説する時に書こうと思います。
「胃の腑」というのは、飲食物から脾の臓が「気血のもと」を取り出したあとの”残りモノ”を、下焦(胃よりも下の部分)に送っていきます。
すなわち「小腸の腑」「大腸の腑」へと、下に下にと、送っていく訳です。
小腸、大腸にて何が行われるかは、それらを解説する時に述べましょう。
つまり、脾は「持ち上げる力」があり、胃には「下げる力」が生理的に備わっている、と、東洋医学では考えます。
そしてこれはなにも飲食物を消化する時にのみ働く力、と考えるのではなく、全身を巡る「気血」の、上下のうごきをバランス調整している、とも考えられます。
いわば脾胃は「人体」という小宇宙における「昇降のバランサー」なのです。
(笑・・・カッチョイー!)
なので、「脾の臓」が弱ると、消化器症状のみならず、気血がうまく上焦に上らないため、立ちあがった時にめまいがしたり、脱肛や脱腸、子宮脱や胃下垂などの内臓下垂になったりすることがあります。
同じように「胃の腑」が弱ると、うまく気血を下げられないために吐き気やおう吐、頭痛などが起こることがあります。
このようにして東洋医学では、「脾」と「胃」を、働きの上から「脾胃」、「脾胃」と呼んで同一視しながらも、実際に変調が起こった時は「脾」なのか「胃」なのかを明確にして治療します。
「脾」が悪い時と「胃」が悪い時では治療のやり方が違ってきます。
症状も違います。
東洋医学的な所見も違います。
こういったことを明確にしないままに治療しても、なかなかうまくいきません。
「弁証論治」の重要性ですな。
・・・人体を上焦、中焦、下焦と3つに分けると、そのど真ん中となる「中焦」にデ~ンと存在し、気血の上下、「昇」と「降」をつかさどる脾胃・・・。
昇るべきものを昇らせ、降るべきものを降す、脾胃はまさに、「生命活動の中心」なのであります。
次回に続く
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2010.07.23
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これまでのお話・・・
「胃」って何ですか?
「胃」って何ですか?(その2)
「胃」って何ですか?(その3)
☆胃は「気」の工場
いよいよ、「胃の腑」の機能面での重要性について書いていこうと思います。
まず、我々人間というのは、「飲食物」と「空気」がないと、すぐに死んでしまいますよね。
外界からこの二つを取り込むことによって、生命を維持している訳です。
そして、このうちの「飲食物」による生命維持に、「胃の腑」が大きく関わる訳です。
飲食物が体内に入ると、まず初めに食道を経て、「胃の腑」に収まります。そしてここで、「脾の臓」と協調して、飲食物から「気血のもと」を取り出します。
つまり脾胃がしっかりと働く、ということが出来ないと、全身の正常で健全な気血の産生運動は、ここでいきなりつまづいてしまう訳です。
しっかりとした脾胃を作るためには手足を使った軽い運動が一番いい、というお話は以前に致しました。
☆脾は上げ、胃は下げる
飲食物が脾胃に入った後、脾が胃をグイグイと「もんで」、気血のもとを取り出したならば、その残り物(カス)はさらに下の「小腸の腑」に送られます。
では取り出した「気血のもと」はどうなるか、というと、一度「胸部」に持ち上げられる、と、東洋医学では考えます。
この「胸部」よりも上の部分のことを、東洋医学では「上焦(じょうしょう)」と呼び、胸部に存在するのは「心の臓」と「肺の臓」、頭に存在するのは「脳」ですよね。
(「脳」についても、またいずれ述べましょう。)
以前、「脾胃」の存在する、みぞおちからおへそまでの位置(スペース)のことを「中焦(ちゅうしょう)」と言いましたよね。
・・・それに対して「心と肺」が存在するのが「上焦」です。
そしてこの”上”と”中”の境界線になるのが「膈(かく)」ですね。
(膈については「心」って何ですか?(その2)参照)
ではおへそよりも下は?というと、「下焦(げしょう)」と言います。
東洋医学ではこのように、人体を「上・中・下」の横3分割にして、それぞれの関わり、それぞれにおける働きを考えます。
なんで3分割で考えるのか、という問題は、長い話になるので、これもいつか書きましょう。
(笑・・・でもここは大変興味深い部分です。)
少し話がそれましたんで、今日はこの辺で一旦切って、次回は「脾は上げ、胃は下げる」話の続きから行きましょう。
続く
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2010.07.22
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これまでのお話・・・
☆胃のかたち
ここまでのお話で、「胃」は人の生命においてとても重要なもので、お腹に位置している、ということが分かりました。
そこで今日は「胃の腑」のかたちを見ていきます。
↓↓これが一応、東洋医学が「胃の腑」と言っているものの図です。
これを見ますと、現代医学の教科書に出てくる「胃=stomach」と非常によく似ていますね。
・・・まあこれが、「脾の臓」と密着した状態で、前回言うように「中焦(ちゅうしょう)」にデ~ンと存在している、と東洋医学は考えた訳です。
↓↓ちなみに既出ですが、「脾胃」のセットの写真
まあこのように、東洋医学の「五臓六腑の図」というのは、たまに写実的だったり、あるいは何を描いたものか一見よく分からないものがあったりと、
「現代西洋医学の観点、常識のみから」
分析、理解しようとすると、ワケが分からなくなるものが多いです。
そりゃそうです。
東洋医学の方が全然前からあるんだから。
今の価値観で、昔のものを強引に理解しようとすると、まあ大体において齟齬が出るでしょうね。
・・・なので、東洋医学の言っていることを理解しようと思ったら、頭をちょっと切り替える必要があります。
視点の基準をちょっと変える、とでもいうかね。
これがすぐにパッと出来る人にとっては、東洋医学が教えてくれることというのは、いたって簡単です。
これ、誰でも普通は出来ます。
出来る筈です。
だってもしそれが出来なかったら、
「君はいつもどうやって自分と違う、色んな価値観、考え方の人たちとお話しをしてるの?」
となりますよね。(笑)
よく、東洋医学は難解だ、とか、よく分からん、とか盛んに言いたがる人って、僕から見ると、ただ単に理解する気がないか、理解したくないだけなんだと思います。
いわゆる「食わず嫌い」ってやつではないでしょうか。
それならそうで、そのまま食わないでほっといてくれりゃあ別に何もないんだけど、そういう人に限ってよそで東洋医学のことを云々したがる傾向があるように思います。(苦笑)
困ったもんです・・・。
やってて思うけど、東洋医学は別に難解じゃないです。むしろ極めてシンプルです。
でもそれだけに「深遠」で、ある意味「”完璧”に限りなく近い、完成度の高い医学」とも思います。
次回に続く
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2010.07.19
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・・・さあ、そろそろ再開しましょう。
これからお話しする「胃の腑」についてのお話は、とても重要です。
東洋医学では、生命を考える上で、この「胃」という腑の働きを、「脾」とセットで大変重要視しています。
何度も言いますが、東洋医学のいう「胃の腑」というものは、西洋医学の言う「胃=stomach」とは違います。混同なきよう。
西洋医学では、「死」を心肺停止と瞳孔散大からの全細胞の活動の停止、と考えます。
(もちろん死の定義については法律的、生物学的など、色々な解釈や議論があります。)
そしてそこに至るプロセスにおいて特に重要視される臓器は「心臓=heart」であったり「脳=brain」ですよね。
語弊があるかもしれませんが、東洋医学では、そうは考えません。
最後まで、五臓六腑の正常な働きに裏打ちされた、「陰陽のバランス」を重要視します。
「陰陽(いんよう)」って何ですか?
「五臓六腑(ごぞうろっぷ)」って何ですか? 参照
そしてとりわけ、その中でも重要なのが「脾胃」であります。
・・・昔、とあるパーキンソン病(脳の病気で、体が震えたり、筋肉がこわばって、徐々にあらゆる運動が出来なくなってしまう病気)の患者さんがいました。
その方は80過ぎの男性で、奥様と二人暮らし。
昔から病院が嫌いな方でしたが、鍼をすると震えが止まり、ご飯がおいしく食べられる、ということで、信頼していただき、亡くなられる寸前まで診させていただいたことがありました。
その方は最後、徐々に徐々に筋肉が硬直していき、起き上がることすら困難、だんだんと食べ物を噛んだり飲み込んだりすることもままならない状況になっていきました。
その時、病院の医師は、「胃ろう(胃に管を通し、その管から胃に直接栄養を入れる方法)」をご本人と奥さまにすすめてきました。
それをすれば、奥様の介護の負担が減るし、ご本人も長く生きられるし、誤嚥(ごえん:誤って飲み込んだものが気道に入ること)して肺炎を起こす危険性もないと。
しかしご本人は、断固拒否。
「そんなことまでして生きてるんなら、死んだ方がマシだ!俺がもし喋れなくなっても、そんなこと絶対にするなよ!」
と、奥様におっしゃっていました。
その後、いよいよ喋ることすら難しくなり、流動食をどうにか口にするようになった頃、奥様が病院の先生に、
「胃ろうにして下さい。」
と、”ご本人に内緒で”願い出ました。
無理もないことで、介護の負担があまりにもきつかったんだと思います。
しかし、「検査だから」とご主人をだまして病院に連れていき、胃ろうを開けた翌日に、ご主人は他界されました。
・・・何とも言えない、症例でした。
東洋医学が重要視するのは、あくまでも他の4臓5腑とのバランスの取れた、「脾胃」であり、それは機械的な消化吸収機関、としての「内臓の一つ」のことではありません。
この患者さんの場合も、治療していく上で僕の念頭にあったのは、最終的には「脾胃」の機能をどこまで保てるか、繋いでいけるか、ということでした。
その場合、常に他の臓腑や全身(精神的な安寧も含む)とのバランスを考えていなくてはなりません。
すべての生物が避けることのできない「死」というものに対して、一つの自然現象として、相対的に寛容に受け止めるか、たとえ姑息的であっても、
方法があるのにやらないということを医療の敗北と考えて、いかなる方法であっても、延命の道をとるか。
・・・東洋医学の「胃」と西洋医学の「胃」は違うんです。
次回に続く
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2010.07.08
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これまでのお話・・・
「脾」って何ですか?(その1)
「脾」って何ですか?(その2)
「脾」って何ですか?(その3)
「脾」って何ですか?(その4)
「脾」って何ですか?(その5)
「脾」って何ですか?(その6)
「脾」って何ですか?(その7)
「脾」って何ですか?(その8)
☆脾が弱ると出血する!?
これまで、「消化吸収のかなめ」としての「脾の臓」に注目して話をすすめてきました。
その流れから言うと、今回の話は意外に思えるかもしれません。でもこういうことが、実際にあるのです。
今日も患者さんから、
「どうして不正出血ってするんですか?」
という質問をいただきました。実はこういった、不正出血や下血、鼻血なんかの原因に、「脾の弱り」があることがあります。
(・・・まあ、今日の患者さんの場合はちょっと違ったけどネ。)
僕は普段の臨床の中で、脾の弱りがメインの患者さんを診た場合、例え症状が不正出血であったとしても、
「胃腸の、消化、吸収する力が弱っていることが今回の症状の原因です。」
という説明をすることがあります。
これを言うと多くの患者さんは、
「ハ?消化吸収と出血に、何の関係が??」
という顔をします。(笑)
しかし、こういうことはあるんです。今日はそんなお話しです。
まず、(その7)でお話ししたように、「血(けつ)」のもとは飲食物であり、飲食物から「血のもと」を取り出す要は「脾の臓」でしたよね?
ということは、「よい血」を手に入れるには、「よい飲食物」+「よい脾」が重要、ということになります。
では、ここでいう「よい血」とはいかなるものかというと、大まかに言うと、
1.血管から勝手に漏れ出さず、
2.全身をキッチリと栄養し、
3.滞ることのない、
血のことです。
この1~3の条件を満たした血こそが、理想的な「血」なのです。
これは言いかえれば、少し難しい言い回しかもしれないけど、「気」とのバランスのとれた「血」と言ってもいいと思います。
・・・まあともかく、脾が弱ると、この1~3の条件が満たせなくなります。
だから仮に飲食物を気をつけて、いいものを食べていても、からだ側の「脾」が弱っていると、”出血”という病的状態になってしまうことがあります。
(専門家の先生方、簡単に済ませて申し訳ないが、”脾不統血”、”気不摂血”というキーワードを、『難経』42難、49難などを踏まえてミックスした、患者さん用の僕なりの説明です。勘弁してネ。)
・・・ここまでで「脾」の形と働きの説明は大体終わります。
最初の方で述べたように、「脾」は「胃」とセットで考えねばなりません。
なので次回から”「胃」って何ですか?”シリーズでいこうと思っています。
「脾胃」は生命力のかなめです。
ココが弱い若者が多い、ということは、日本の将来は一体・・・。
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2010.06.18
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これまでのお話・・・
「脾」って何ですか?(その1)
「脾」って何ですか?(その2)
「脾」って何ですか?(その3)
☆脾の位置
今日は、脾の位置についてお話ししようと思います。
脾は、前回までに書いたように「胃の腑」とぴったりくっついて、体のど真ん中に位置します。
東洋医学では「胸(膈)から上」を上焦、「上腹部から臍のレベル」を中焦、「下腹部以下」を下焦と、大まかに人体の部位を上中下の3つに分けて考えますが、
この中で、脾が位置するのは「中焦」の位置です。
つまり腹、体のど真ん中に、堂々と、デーンと存在しているのが「脾胃」なのであります。
日本では、あまりいい意味で使われることはないけれど、”中華思想”という言葉があります。
古代中国人にとってはこの「中」というものに特別な意識があります。
中国人が「中」という字を使う時は深い意味があることが多い、と思った方がいいです。
当然それは医学にも反映されていて、「脾胃」は生命活動の中心となる、と言い、ここの営みを指して「気血生化の源(きけつせいかのげん)」なんて呼んでいます。
つまりここに入ってきた飲食物から、「気血のもと」をきっちりと取り出し、「心」や「肺」の存在する「胸から上」に持ち上げ、不要なものは「下腹部」にある「小腸」「大腸」に送る、
という活動の活発さこそが、”生命力”そのものの根本だ、という解釈です。
・・・ではなぜ、その「気血生化の源」である脾胃の営みが、手足を使った運動にて鍛えられるんでしょうか?
これはあまり難しい話にしたくないので、簡単に述べましょう。
要は、体のど真ん中にある脾胃から、一番遠いのが手足であり、手足は脾胃がしっかり働かないと、栄養が行き届かず、十分に養われないから、
「手足を使った運動をする」
ということは、脾胃のお尻を叩くことにつながるんです。
手足を積極的に使うことで、
「お~い!脾胃さ~ん!早く気血をおくれよ~!!」
とやっている訳です。
すると脾胃さんが、
「はいよ~!ちょっと待ってな~!!」
ということで、頑張って消化吸収機能を行い、気血をたくさん、速やかに作って、手足を養おうとする、という訳です。
ということは当然、手足を使わなければ脾胃は怠けて弱るし、脾胃が弱れば手足も弱くなる(萎える)ということです。
だから脾胃と手足は「中央(真ん中)と四隅(よすみ)」という、ちょっと変則的な陰陽の関係をなしている訳です。
(笑・・・ムズい?)
一応、専門家の方も読んで下さっているようなので、上記解釈の根拠を示しておきます。
『黄帝内経素問』太陰陽明論(29)です。
ちなみに杉山流などでは五行を使った解釈がありますが、あれは一般には説明しにくいので割愛しました。あしからず・・・。
ここまで書いたところで、急用が入ってしまいましたので、今日はここまでです!
次回に続く
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