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2011.02.08
立春を過ぎれば、
「暑さ寒さも彼岸まで」
なんて言葉が、患者さんとの会話の中に混ざるようになってきて、ぼつぼつ春到来の予感でございます。
今日はえらく寒いし、夜には関東でも雪が降るなんて言ってるけど、昨日やおとといなんかは、意外と寒くなかったですよね。
また、昨日はけっこう風が吹いていましたが、その風の冷たさ、吹き方が真冬のそれとは随分違ってきたなあ、ということに、敏感な人は気付いたことでしょう。
春→夏→秋→冬→・・・という季節の循環は、昔からある程度一定であります。
東洋哲学では、この「四季」の循環に応じて、人体にどういう影響が起こるかを、非常に理論的に考察しています。
なぜならこれは日本人、中国人が農耕民族であったからではないか、というのは、多くの学者さんが指摘するところです。
・・・という話を、このブログでも何度か書いています。
・・・農耕民族にとって、その年の気候の変化をなるべく正確にうかがい知る、予測する、ということは、その年の収穫の多い少ないを決定づける事項であるため、
まさに死活問題であったワケです。
まーそれはともかく、1年のうちで「春」という時期は、五行で言うと「木(もく)」に分類され、自然界は樹木が青々と、伸び伸びと繁茂し、
また新芽が芽吹く時期でもあります。
人体も同じように、伸び伸びと繁茂するように気が伸び伸びと動いてくれればなにも問題は起こらないんですが、そうもいかない人にとっては「肝の臓」の働きが必要以上に高ぶりやすく、
肝の臓の不調を起こしたり、木の性質を持つ邪気である「風邪(ふうじゃ)」という邪気に侵されやすい時期となる、と考えます。(苦笑)
カテゴリ 「五行」
小麦アレルギー
「花粉症」について(その2) 参照
・・・ですのでもともと運動不足や仕事のストレスから「肝の臓」の働きが昂っていることが多い現代人は、この時期、
「肝の臓の働き高ぶり過ぎ病」
とか、
「風邪(ふうじゃ)に侵された病」
になってしまうことが多いのです。
(長くなっちゃいそうなんで今日はこの辺にしときます・・・。)
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2010.05.21
これまでのお話・・・
「肝(かん)」って何ですか?(その1)
「肝」って何ですか?(その2)
「肝」って何ですか?(その3)
「肝」って何ですか?(その4)
「肝」って何ですか?(その5)
「肝」って何ですか?(その6)
「肝」って何ですか?(その7)
「肝」って何ですか?(その8)
「肝」って何ですか?(その9)
肝について、ダラダラとしゃべっていたら、もう10回目になってしまいました・・・。
(早いネー。)
・・・ということで、ここらで肝に関しては一旦完結します。
これまで、東洋医学の言う「肝」という臓は、「形態」に意味深い特徴があり、機能的には目や爪や髪や筋(経筋)の栄養に関わり、なおかつ内に「魂」や「血」を蔵し、
しかも全身の気の流れを調節している、とっても大事な臓ですよ、ということを書いてきました。
ではそんなに重要な「将軍」である肝が病んでしまうのはどういう時か、と言うと、誤解を恐れず超簡単に言うと、非常に多いのが”精神的ストレス”です。
このネ、”精神的ストレス”という言い方、僕はあまり好きではありません。
・・・というのは、(その1)でも言うように、これを仮に患者さんに伝えても、だってそんなんどうしようもないじゃん!て言われるからです。
そりゃあ確かに、鍼をいくらしたって、その患者さんの、浮気性の旦那の性格を改善させたり、口うるさい上司を優しい上司に変化させることは不可能です。(笑)
でも、じゃあそういうことにストレスを感じて、まいっている人の治療は不可能かと言うと、「可能」です。
それも、”その場限り”ではなく、です。
(その9)で述べたように、肝は将軍であり、外的な物理的、精神的刺激に対して、色々と作戦を立てながら、人間の正常な状態を保つように、一生懸命働いています。
要はこの刺激があまりにも過度であったり、長期的であったりすると、”肝将軍”は一生懸命になり過ぎたり、時には疲れてしまいます。
そうなると主に、
「気の巡りを配分調節する機能」
が、うまく働かなくなり、実に様々な精神、身体症状を出します。
清明院の患者さん達を診ていても、”肝将軍”が病んでおられる患者さんを、非常に多く見かけます。
こういう患者さんを治療していくと、よく面白いことが起こります。
「先生、最近彼氏になんか言われても、”イラッ”と来なくなった!」
「職場の上司に小言や嫌みを言われても、別にどうでもいいや、と思えるようになりました。」
・・・コレです。
”肝将軍”が本来の働きを取り戻すと、これまでストレスに感じていたものがストレスじゃなくなる、という変化が起こります。
体を通じて、心が変わる、大げさに言うと、その人の「運命」が変わる、という訳です。
これが徹頭徹尾、「心身一如(しんしんいちにょ)」という、東洋医学の生命観をもって治療した時の、”正しい患者さんの変化”なんです。
ココロとカラダを切り分けたら、そんなの生命じゃないんです。
こういう考え方を体系化し、生命、自然を説明し、キチッと結果を出す東洋医学、ほんっとに、美しいよナー・・・と、思います。
肝の臓について、ひとまず終わり。
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2010.05.20
これまでのお話・・・
「肝(かん)」って何ですか?(その1)
「肝」って何ですか?(その2)
「肝」って何ですか?(その3)
「肝」って何ですか?(その4)
「肝」って何ですか?(その5)
「肝」って何ですか?(その6)
「肝」って何ですか?(その7)
「肝」って何ですか?(その8)
・・・ではでは、楽しい楽しい「肝」のお話を続いてまいりましょう。
◆肝は将軍
東洋医学の古典では、
「肝は臓腑の中では”将軍”のような役目を果たすよ。」
と言っています。
(『黄帝内経素問』霊蘭秘典論(8) 参照)
コレ、面白い例えだと思います。
将軍の役目と言えば、戦いの時に作戦を考え、自らも動き、自分の軍を勝利に導く、言わば、
”勝敗を分ける、戦のかなめ”
ですよね。
・・・これを人間の日常生活で考えると、「戦(いくさ)」というのは、要するに”外界からの刺激に対する対応”です。
(物理的、精神的、両面含めた、です。)
人間は”オギャー”と生まれたその日から、最後亡くなるその日まで、実に様々な刺激にさらされ続けます。
(まあ、生まれる前からもだけどネ。)
その刺激に対して、上手に、適切に対応できれば、精神的にも肉体的にも、理論上は何も異常を起こさず、快適な日々を送ることが出来ます。
「肝」の働きが異常を起こすと、本来耐えられるはずの些細な刺激でも、体が異常を起こしたり、緊張とリラックスのアンバランスが生じたりします。
清明院の患者さんでも、別に仕事で緊張し過ぎている、という自覚はないけれど、家に帰ってホッとする、あるいは休日でホッとする、そうすると、
急に色々な症状が出る、とおっしゃる患者さんがおられます。
(皆さんこういうこと、ないですか?)
こういった場合、臓腑では「肝」を中心に病んでいて、
”緊張とリラックスのアンバランス”
が起こっていることが少なくありません。
つまり、将軍である肝が、平素から「余分に」力み過ぎちゃってる訳です。
プロスポーツの試合なんかを観ているとよく分かると思いますが、やっぱり選手が力み過ぎていると、たいがい負けますよね。
余分な緊張、というのは、かえってパフォーマンスを下げてしまうのです。
これは何もスポーツの世界だけではなく、我々の社会生活においてもしかりであります。
そういう患者さんを治療していくと、ある程度治療が進んだ段階で、
「今まで余分な緊張をしていたことがよく分かりました・・。」
なんて言われることが多いです。
患者さんからこの言葉が出たら僕は、
「お、肝の働きが大分立ち直ってきたな。ヨシヨシ・・・。」
と理解します。
「ストレス社会」、「うつ病の時代」と言われる現代、肝を中心に病んでおられる患者さんは、非常に多いと思います。
続く
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2010.05.15
これまでのお話・・・
「肝(かん)」って何ですか?(その1)
「肝」って何ですか?(その2)
「肝」って何ですか?(その3)
「肝」って何ですか?(その4)
「肝」って何ですか?(その5)
「肝」って何ですか?(その6)
「肝」って何ですか?(その7)
引き続き、「肝」を構成する”7枚の葉っぱ”の意味について考えてみましょう。
前回述べたように、他の奇数に比較すると、影が薄いとはいえ、古代の中国では、様々な古典の中に”7”が出てきます。
『論語』『孟子』『荘子』などなど・・・。
僕ら東洋医学を学ぶものにとってなじみが深いモノの中では
『黄帝内経(こうていだいけい)』
という、東洋医学のバイブルと言ってもいい、大古典の中に、女性は7の倍数に応じて成長する、という記載が出てきます。
(つまり、7歳、14歳、21歳、28歳・・・と、女性の生涯の中で、身体的に大きな節目が訪れるよ、という記載です。)
また、東洋医学の根本思想である「陰陽論」の来源ともいわれる、『易経(えききょう)』の中にも、”7”という数字が「繰り返し、つまり循環」を示す数字として登場します。
(本田濟『易』P224~参照)
また、ここで詳しくは述べないが、今井宇三郎先生の『宋代易学の研究』の第二章(P146~)に、『易』において有名な「河図洛書」の「河図」には、
後漢の『漢書』五行志や、後漢の儒学者、鄭玄(じょうげん)の『周易鄭玄注』によって、1~5までの数字を「生数(せいすう)」、6~10までを「成数(じょうすう)」と呼んでおり、
7は生数5+2と考えられ、五行では火の成数ということになるが、龍雷相火といわれる肝の臓に、五行において火の意味を持つ成数7が乗せられていることは興味深いが、
この意味で肺の八葉を解釈しようとすると、こちらは「木」の成数ということになるので、肝の七葉、肺の八葉の意味に一貫性が見出しにくい。
ここは、詳しい読者諸賢の方は是非ご教示下さい。
個人的には、蕭吉(しょうきつ)撰『五行大義』の生成数解釈でここに関しては強引に理解しています。
(中村璋八ほか注『五行大義 上下巻』、神野英明『鍼灸漢方の名医になるための秘訣』P106~参照)
さらには仏教においても「初七日」「四十九日」と、7および7の倍数(乗数)に、極まり、そしてまた繰り返す、あるいは次なる段階へ進む、という意味がのせられています。
さらにさらに、中国古代の文学作品や詩集には、タイトルに「七」のつく作品が異常に多い、という特徴があるそうです。
この理由については、最終的には”不明”らしいですが(苦笑)、僕個人としては、「七」という数字に込められた、
「永続性」と「形式美」
に、当時の文学者たちは何かを感じていたんじゃなかろうか、と思っています。
(終わりと始まりを、同時に、かつストーリー性を持たせて表現できる数、という意味でね。)
・・・また、卑近な例として、7月7日の七夕祭りがありますね。
これも実は、織姫と彦星が、いつも会いたいのに年に一度しか会えない、ということから、「やっと会える日」の強調というよりも、好きな人がすぐそこにいるのに会えない、
”無限にも感じられる辛い時間”
というものの永続性とその極みを”7”に込めた、という解釈もあるようです。
(ロマンチック!!)
・・・さらに天体モノでいくと、何と言っても「北斗七星」の7です。
古代の中国人は夜空を見て、北極星の周りを回る北斗七星の柄の部分がどの方角を指すかで季節を定めました。
(ちなみに北辰会の”北辰”というのは北極星という意味がありマス・・。すごいネーミングだネ・・。)
そして道教においては、七夕に七星を祭る、という儀礼が存在し、内丹術(・・・ここでは詳しくは述べないけど、まあ要は気功みたいなもんです。)においても、”七”を極めて重要視します。
(これには”不老長寿”という考え方と”7”の神秘性、永続性が関係しているのではないか、と思っています。)
・・・また、空間を認識する上でも”7”は実は重要です。
つまり、「東西南北」の4と、「上下」の2を足すと”6”という数字が得られ、これを「六合(りくごう・・・宇宙のこと)」と言いますが、
これに「中央」、つまり「観測者の立ち位置」を加えると”7”という数字が得られます。
これにより広大無辺な六合空間の中に「基準」が出来るので、基準点から見て「空間」というモノを”どこからどこまで”と規定することが出来ますし、
当然、その空間の中で、2点間の移動を考えることが出来ますから、その移動速度と合わせて”いつからいつまで”という「時間」も規定することが出来ます。
小学生の頃やった、「道のり、早さ、時間」てやつが規定できるようになるわけです。
こう考えると、時間と空間を「規定する」「決定づける」数字が”7”なのであります。
それが、狭義の「魂」(意識の支え)と「血」を蔵し、「全身」という空間区分における「気」の配分調節をつかさどるという役割を持つ「肝」の「形態」に、
さりげなくのせられている、という東洋医学・・・、シャレてないすか?
・・・今日のブログは、細かい部分をかなりはしょりまくって書いたものなので、ちょっと意味が分かりにくかったかもしんないけど、何となく壮大で面白そう、
ということが伝われば、とりあえず満足です(苦笑)
今日はあえて書きません(てか書けません)が、ここからさらに、まだまだ2次的、3次的に生じる疑問や、それに対する考察についても、
これまた面白い考え方が山ほど!!
そのほかにもまだまだ僕の中で何年かあたためてる事案が山ほど!!
・・・ですので、東洋医学の中にさりげなく出てくる数字の意味には、深い意味が込められているとしか思えないことが多く、無視しない方が良いのですが、
これに最初からあまり拘ってばかりいると、基礎固めが全然進まないので(苦笑)、初学の方にはまったくおススメしません。
こういう細かい部分で、なおかつ初めに提唱した人の見解が残っていないので、原義や解が出しにくい部分に対して、色々な古典を幅広く調べて渉猟し、
肝の臓の七葉の意味の仮説に関して猛烈に詳しくなったとして、・・・「で?」ってなります。(笑)
しかし、そうはいっても東洋医学面白い~・・・、やめられない止まらない~・・・。
続く
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2010.05.12
これまでのお話・・・
「肝(かん)」って何ですか?(その1)
「肝」って何ですか?(その2)
「肝」って何ですか?(その3)
「肝」って何ですか?(その4)
「肝」って何ですか?(その5)
「肝」って何ですか?(その6)
今日は(その6)でお話しした、「7」という数字について考えてみたいと思います。
以前、「東洋医学」と「数学」にもチラッと書いたように、この医学には何かと“数字”というものが付きまといます。
これの意味については、とりあえず置いといて、「そういうもんだ」ということにして話を進めた方が、当然のことながら簡単なんです。
しかし、古代中国人の生命観をより深く分かろう(理解しよう)と思ったら、こういう何気ないことの意味にもやっぱり目を向けた方がいいと思います。
東洋医学の言う「肝」は”右に4葉、左に3葉、合わせて7葉”の葉っぱが垂れ下がった形をしております。
(↓こんな形ね。)
(岡本一抱(1655-1716)『臓腑経絡詳解』より)
文脈的に、江戸期の日本の文献である『臓腑経絡詳解』から持ってくるのはどうかとも思いましたが、分かりやすかったのでこの図にしました。
(専門家の先生方、大目に見て下さい(笑))
中国においては、西洋医学との接触後も、東洋医学を実践する者の間では、この図が支持され続けてきた、という事実があります。
(まあ現代日本の僕らもある意味ではそうな訳ですが、少数派です・・・。)
この図には、何らかの深い意味があるに違いない、と思います。
私が数字の意味を掘り下げる時にいつもお世話になっている良書、青土社『中国神秘数字』によれば、しかしこの「7」という数字は、世界的、
とりわけ旧約聖書なんかでは特別な数字とされているけども、中国においては、
「1」「3」「5」「9」
という、他の1桁の奇数と比較すると、実はわりかし影の薄い存在なんだそうであります。
ちなみに旧約聖書の世界では、7は「聖なる数=聖数」として、無限の数や循環を意味する時に多く用いられ、有名な一節で、 『マタイによる福音書』第18章の中で、
ペトロがイエスに、
「兄弟が自分に対して罪を犯したならば、何回赦すべきですか?七回ですか?」
と聞いているのに対して、イエスは、
「七回どころか、七の七十倍まで赦しなさい」
と説いております。
ここからしても、旧約聖書においては「7」という数字が「無限」を示す数字だ、ということが分かります。
しかも、7の内訳は「3(神性)+4(人性)」と言われ、すなわち宇宙(言いかえれば神と人との結合)を示します。
こう考えると、イイ感じで東洋医学のいう肝の臓の「右4葉、左3葉」と、肝が「魂を蔵する」ということの神秘性と符合するんだけどナー、
な~んて、学生の頃、よく妄想してました。
(笑・・・しかし、どう考えても東洋医学のいう”肝の7葉”は聖書からの発想ではないでしょうね。。。)
では東洋ではどうか、と考えて色々と調べてみると、「中華三大宗教」と言われる儒教、道教、仏教の中で、最も「7」がよく出てくるのは道教だそうです。
また、古代中国人における「7」の特殊性の中でよく考えられるのは「北斗七星」の”七”です。
またさらに、意外と、”7”は中国における文学者の間で、非常に好まれた数字でもあるそうです。
さあ、この辺の解説は長くなりそうなんで、この続きは次回、お楽しみに・・・。(笑)
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2010.05.08
これまでのお話・・・
「肝(かん)」って何ですか?(その1)
「肝」って何ですか?(その2)
「肝」って何ですか?(その3)
「肝」って何ですか?(その4)
「肝」って何ですか?(その5)
今日は、東洋医学の言う「肝」という臓の”形態”について考えてみたいと思います。
東洋医学では、西洋の解剖学のように、内臓の一つを体から取り出してきて、それを細かく写実的に観察し、その各部位の機能を考える、という方法は採りません。
(採ろうとしたけど技術的に無理だった側面もあるでしょう)
ある臓腑は、あくまでも「全体」の中の「部分(構成要素の一つ)」に過ぎない、という、「生命体全体としての機能の調和」をこそ重視する認識から、
「形態」よりもむしろ「機能」の面に着眼して、解剖学、生理学を構築しています。
そのため、臓腑の形態の図については、西洋医学と比較すると甚だ簡単で、現代の我々の常識から考えると、一見”奇妙”にすら感じる形態が書いてあるものが多いのです。
しかしその形態には、一つ一つ深い意味が込めてあるように思えます。
これから説明する「肝」の形なんて言うのも、その最たるものの一つであります。
◆「肝」は葉っぱの形をしている
東洋医学における「肝」の形態、というのは、葉っぱが7枚、上から垂れ下がったような形をしています。
(張景岳『類経図翼』より)
これは、「養分を蓄える」という葉っぱの機能と、「血を蓄える」肝の機能がよく似ている、という発想から、この形状で描いたのではないかと考えられます。
そして、なぜ、「7枚」なのか、という疑問が浮かびます。
しかもこれを正確に言うと、「右に4枚、左に3枚、合わせて7枚」なんです。
ひとつには、右に1枚多いのは、肝を病むと体の右側に症状が出やすい、ということを示している、というのが定説のようです。
こういう風に言われると、西洋医学的な肝臓(liver)も体の右側に偏って存在しているということと重ねて考えたくなりますが、その方向性で東洋医学の蔵象学を突き詰めていくのはあまりお勧めしません。
ろくなことになりゃしません。
(笑・・・経験者が言うんだから間違いないです。)
・・・ともかく、いつか書いたけど、東洋医学にこういう意味ありげな「数字」が出てきた時は、深い意味があることが多いのです。
次回、”7”という数字に対する僕なりの考えを書いてみたいと思います。
次回に続く
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2010.05.06
これまでのお話・・・
「肝(かん)」って何ですか?(その1)
「肝」って何ですか?(その2)
「肝」って何ですか?(その3)
「肝」って何ですか?(その4)
◆肝は筋(きん)と関係が深い(補足)
これは上記(その3)で述べたんですが、今日はもう少し詳しく説明してみましょう。
・・・まあコレは、結局のところは(その3)で言ったように、筋を養っている主なものが「血」であり、それをためこんで配分調節しているのが肝だから、という話な訳です。
(笑・・簡単に言い過ぎでしたかね?)
ここで注意したいのは、いつも言うように、「筋」と言っても、西洋医学の言う「筋肉=muscle」と、東洋医学の言う「筋」は違うよ、ということです。
ここは大事なトコなんで、今日はここをちょっと説明しておきましょう。
以下の説明では、キチッと区別するために西洋医学の言う筋肉に関しては”筋肉”、東洋医学の言う筋に関しては”経筋(けいきん)”と表記します。
混乱しないでネ。(*^_^*)
東洋医学では経絡(けいらく)とよく似た考え方で、「経筋(けいきん)」というものの存在が考えられています。
この「経筋」に関する「経筋学」というのは、西洋医学の言う「解剖学的、組織学的な筋肉学」とは”全然”違います。
そもそも人間の動作、というのは、一つの筋肉の収縮のみによって起こっている訳ではございません。
ある動作にかかわる、あらゆる筋肉が同時多発的に収縮、弛緩しながら、なめらかな人間の動作を、とても巧妙に作っています。
そしてその動作には、一定のパターンがありますよね?
例えば肘や膝を、いつも曲げる方向とは反対の方向に自由自在に動かせる人間はいませんよね。
無理に曲げようとすれば当然「骨折」です。
(笑・・ちなみにこの仕組みを利用して考え出されているのが、格闘技の”関節技”です。)
その、動作のパターンを考えて、あらゆる筋肉を一まとめにして、言わば、
「運動機能のパターン別のグループ分け」
をしたのが、東洋医学の言う「経筋」というものです。
このグループ分けは、全部で”12パターン”ありまして、実は「経絡」と同じ数でまとめられています。
(経絡については以前、「経絡(けいらく)」って何ですか?で少し述べましたのでご参照下さい。)
しかもその流れ、要は12経筋それぞれが受け持つエリアも、12経絡のそれとかなり似ています。
こう考えることによって、内臓の機能と運動器の機能の関連性を見出すことが出来、
「人間のからだのしくみ」
というものを考える場合、非常に全体に統一性が出てきて、色々考えやすい訳です。
西洋医学が人体を細胞に分け、果ては遺伝子、原子、電子まで、何しろ「分割」しまくろうとするのに対して、東洋医学は一応、
”理解するために”
分割はするけども、必ず最終的には常に「一つ」にまとめようと考えます。
局所の異常であっても、それはあくまでも分割不能な「全体」の不調和の結果なんだ、という考え方です。
これが徹頭徹尾貫かれていることが、東洋医学の最大の特徴であり、長所であり、ある場面においては短所でもあると思います。
なぜ、東西でこのような違いが生じるかについては、いつかまた述べましょう。
(苦笑・・・コレがなかなか大変なテーマなんだけどね。。でも僕なりの考えはあります。)
・・・まあとにかく、この「経筋」というものがスムーズに、異常なく動くために必要不可欠なものが「血」であり、それを蔵してて、
しかも全身への配分を調節しているのが「肝」なんだから、「肝は筋と関係が深い」と言える訳です。
今日の話に対して、意地悪な質問をするとすれば、
「へえ~、じゃあ東洋医学って、医者が分かりやすく人間の体を理解するために考えた、あいまいな仮説の集合体ってことですか?」
という質問が浮かびますが、この質問に対しては、僕なら、
「そうです。それが何か?・・・じゃあ西洋医学はそうじゃないんですか?2者の違いを分かりやすく説明して下さい。」
と、”意地悪な”逆質問をしますね。(笑)
・・・まあ、ていうのは、究極、あいまいな仮説の集合体であるのは、西洋医学も東洋医学も「同じ」ではないでしょうか。
(竹内薫氏の『99.9%は仮説』っていう良い本がありましたね)
西洋医学で出来ることも、東洋医学出来ることも、限られている。
でも、どちらも実際に一定の臨床効果を挙げており、現状ではどちらも限界はあるにせよ、
「病む人体の真実」
の、ある部分は捕まえているんじゃないか、と僕は考えています。
次回に続く
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2010.05.01
これまでのお話・・・
「肝(かん)」って何ですか?(その1)
「肝」って何ですか?(その2)
「肝」って何ですか?(その3)
肝という臓は、人間の体の中でも大変重要な臓でして、上記以外にもまだまだ働きはあります。
話があまりマニアックになっていきますと、患者さん向きでなくなるんで、このブログでは極力専門用語は使わずに、分かりやすく解説していこうかな、と思ってます。
(まあ専門家の先生方には、そういうサイトや本がいくらでもあるしね。)
・・・てな訳で今日も、肝の働き、いけるとこまで。
◆肝は「目」に関わる
・・・これも結局は、「髪」や「爪」と同様に、「目」を養っているのは「血」だから、というオチであります。
肝にためこまれている「血」が十分であり、ちゃんと目に十二分にいきわたっていれば、少々長い時間本を読んでも、PC作業をしても、
目が疲れたりかすんだりすることはありません。
清明院でも、よく患者さんの下まぶたを下げて(いわゆる”アッカンベー”ね。)、白くなってないかどうか診させていただくことがありますが、
下まぶたをめくった時の色が白くなっていれば、
「あ、肝がためてる血が少ないか、ためてる量はあっても、何らかの原因で、目にきちんと行きわたってないな。」
と考えます。
他にも、白内障や緑内障、疲労性の網膜剥離などなど、眼科のあらゆる病気は、東洋医学的には「肝」の異常を中心として起こっていることが少なくありません。
◆肝は「魂(こん)」を蔵(ぞう)す
・・・コレ、響きからして、いかにも東洋医学~!って感じでしょ?(笑)
「一体なんなのだ、この「魂(こん)」というものは!?ワケのわからんことを言うな!!」
と、僕も学生の頃は思っていました。
これについて細かく細かく解説をしていくと、どんどん肝の話から逸れていきますし、僕自身が年末に北辰会で講義する内容のネタばらしにもなっていきそうですんで、ここではごく簡単に述べてみます。
ここで言う「魂(こん)」ていうのも、人体を循環する「気」の一種だと考えて下さい。
つまり、生きている人間の体の中を絶えず流動し、心身のバランス調節をしてくれているものの一つです。
(「気」については、「気」ってなんですか? 参照)
で、「魂」は、日中活動時は「気」のように全身を行ったり来たりしていますが、睡眠時は、「肝の臓」に戻る、という運動パターンを持っています。
「肝の臓」が家だとすると、その家の主人が「魂」といった感じです。
このように肝の臓は、「血」であったり「魂」であったり、色々な重要なものを”蓄える”という性質があるということが、肝の臓を理解する上ではひとつ、重要です。
〇
・・・で、「魂(こん)」と「気」との違いはどうかというと、「気」が全身を巡って、”全ての生命活動を”調整するものであるのに対して、「魂」は、
「人間の無意識の精神活動を調節しているもの」
と言われます。
(笑・・・分かりにくいねえ~)
要はこの、「無意識の精神活動」っていうものは、僕らが普段、普通に「意識的に」やっていることの”支え”であり”裏”となっているものです。
例えば、「何かしよう」と思う時も、それを実際に行動に移す時も、その背後には、必ずこの「魂」の働きがある、ということです。
だから、目立ちませんが、大変重要なものです。
この「魂」の働きの具体例としてよく言われるのは、「夢」や意識昏迷状態での「うわごと」などです。
(「夢」についてはかつて「夢」はなぜ見る?にちょこっと書いてますのでご参考あれ。)
本来は、「寝てる」という状態であれば、人間は当然無意識状態ですから、「魂」の出番はありません。
だから寝ている時は「魂」は「肝」におとなしく帰っています。
(その時「魂は肝に蔵されている」わけね。)
しかし肝が病になると、この「魂」が不安定になって、(肝の臓に蔵することが出来なくなって)寝ている間も肝に帰らなくなります。
(非行少年のように、夜遊びし出すわけです)
そうすると、「夢」をよく見て、しかもそれをいつまでも覚えている、という病的な現象が起こります。
これを東洋医学では「多夢(たむ)」と呼び、うわごとや、酷いものでは夢遊病なども含めて、「魂(こん)」が夜の間に肝の外で遊んだ、
という意味で、「遊魂(ゆうこん)現象」なんて言います。(笑)
・・・面白いですねえ。(笑)
東洋医学にはこういう、西洋医学にはない、独特の病のとらえ方がたーくさんあります。
どれもとても面白いです。
しかしもちろん、この医学は面白いだけで終わりません。
例えば上記のような、毎晩毎晩、悪夢にうなされて睡眠不足で困っている、という患者さんがいた時に、これを”遊魂現象”と考え、「肝」に着眼して診察し、
実際に肝の病が中心だ、と確定したとします。
そして、それを上手に治療していくことによって、夢を見なくなり、ぐっすり眠れるようになる、
そして、それに伴って、肝の臓に関する病的なツボの反応やその他の症状が体から消えていく、という現象が「現実に」起こるんです。
そういう症例を実際に経験するたび、東洋医学はこのような一見不可思議な説明から、確かに一部「真実」を捕まえている、と再確認出来る訳であります。
次回につづく。
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2010.04.30
「肝(かん)」って何ですか?(その1)
「肝」って何ですか?(その2)
今日は肝の色々な働きについて、いけるとこまで。
◆肝は筋(きん)をつかさどる
・・・これはそのまんまの意味です。
よく、こむら返り(ふくらはぎの筋肉がつる)を起こす患者さんがいますが、コレなんかは東洋医学では「肝」の異常で起こっていると考える場合がよくあります。
あと、いわゆる「チック症」と呼ばれるような、緊張や興奮で、顔面の筋肉がピクピク痙攣するようなものも、「肝」の病変を中心として起こっているものが多い、と考えます。
(もちろん肝だけではないけど、多い、ということです。)
なぜならば、筋を養っているのは「血(けつ)」であり、その血は肝が蔵し(蔵血)、疏泄(そせつ)機能によって筋に血を配分調節している主役は、「肝」に他ならないからであります。
まあしかし、ここで重要なのは(というか勘違いしてほしくないのは)、主役がいれば当然脇役もいる、ということです。
実際に治療する上では、この脇役がどういう状態か、というのが非常に問題になりますので、
こむら返りやチック=肝の病
という考え方は、東洋医学ではしませんので、あしからず。
◆髪、爪と関わる
・・・これも結局、この2つ(髪と爪)が、肝がためている「血」によって栄養されているからです。
だから、肝がためている血が不足したり、疏泄機能がうまくいかなくて体の隅々までいきわたらなくなると、爪はもろくなり、髪はパサパサ、ゴワゴワになってきます。
よく臨床をやっていて思うんですが、髪がパサパサの患者さんで、肝を中心に患っておられる方を治療していくと、これから生えてくる髪が、
きれいな潤った髪になるのは分かるけど、”もうすでに生えている髪までもが”ツヤツヤに潤ってくることがあります。
僕はこういう変化があるとよく、
「清明院は”中から美容鍼灸”で勝負させてもらってます!(笑)」
とか言って、笑いながらやっていますが、これは特に若い女性の患者さんには、これは大変喜ばれます。
今までさんざん、高いシャンプーやらなんやらを試してきたのに改善しなかったのが、鍼を受けるようになったら、月経の異常や冷えの改善なんかとともに、
髪質まで改善したと。
これは受ける側からすればミラクルですよね。
でも実際には日常茶飯事的によくあります。
髪や爪というのは、確かに切っても痛くもかゆくもないし、血も出ませんが、体の一部であることに変わりはありませんから、そこにはかすかに「気」が巡っているんです。
だから肝が調い、疏泄の力、蔵血の力がきちっと働いてくると、体の隅々まで「気と血」が行きわたり、その結果、すでに生えている状態の髪や爪までもが、
本来の美しさを取り戻す、ということだろうと僕は考えています。
素晴らしいことですよね。
・・・今日はここまでにして、続きは次回。
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2010.04.29
これまでのお話・・・
・・・「肝」というのは、五臓六腑の中の一つです。
東洋医学の言う、五臓と六腑には、それぞれに独特の働きがあり、それらがうまく協調しあうことによって、正常な人間の機能が保たれます。
これは、西洋医学の言う「内臓=organ」とは違う!ということは、何度も何度も、繰り返し繰り返し、述べている通りです。
(笑・・・しつこい?)
では東洋医学の言う「肝」というのは、どういうもので、何をしているところなんでしょうか?
まず、中医学の教科書的には、肝には、「疏泄(そせつ)」という重要な働きがあります。
(”疏泄”という単語の歴史的経緯、変遷についてはまた色々とあるんですが、ここでは省きます。)
これは要するに、
全身を流れる「気(き)」や「血(けつ)」という、流動物を、足らないところには補い、渋滞があったら取り除く(通じさせる)、
という、肝の臓の重要な働きのことです。
これがあるから、少々の滞りや過不足であれば、「肝の疏泄機能」によって体が勝手に改善してくれる、という訳です。
次に重要なのが「蔵血(ぞうけつ)」という働きです。
これは読んで字のごとくです。
「血(けつ)を蔵する」訳ですから、体の正常な状態を維持するのに欠かせない「血」を、不足したところに補うためには、常にどこかに蓄えていないといけません。
「肝の臓」は、それ自体に”血を蓄える”という、重要な働きを担っております。
上記の2つは、東洋医学的「肝の臓」の機能の中でも最も重要な2つの働きです。
ちゃんと「疏泄」するためには、必ず十分に「蔵血」してないといけないし、たとえ「蔵血」だけしてても、「疏泄」しなかったら意味がありません。
この2つの働きは、「肝」という臓の、内向き(蔵血)と外向き(疏泄)の2つの機能として、「肝の臓」という臓の働きを考える上で、とても重要な「陰陽バランス」なのです。
ではそれ以外の働きはというと・・・それは次回。
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