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これまでのお話し
・・・さて、ではそろそろまとめましょう。
まあ一口に「逆証」「順証」といっても、それはあくまでも術者のレベルによって変わってくるものである、ということを知っておいた方がいいですね。
けっこう、「逆証」という言葉は、「キツイ虚証」とか「キツイ実証」、つまり「単に重症のもの」と混同して使われたりする場合があるので、注意が必要です。
正しくは、「逆証」は東洋医学のものさしで診て予後不良の疾患、「順証」は同じく予後良好の疾患、という理解でいいと思います。
ただ、この「順逆」には幅があります。
つまり、僕にとっては逆証の症例であっても、もっとうまい先生にとっては順証のものがある、ということです。
『黄帝内経霊枢』九鍼十二原(1)のいう
「言不可治者.未得其術也.(治すべからざると言うは、未だその術を得ざるなり)」
ですね。
今回、石原保秀先生の『死生要訣』の中から紹介した、あらゆる重症の腹部所見は、確かに生命予後に関わるような重篤な場合に呈される所見であることは確かですが、
これとて、それがあったから絶対に誰にも治せない所見、と単純に斬ってしまうことは危険です。
臨床ではあくまでも脈、舌などの他の所見と参伍して、慎重に判断するべきですし、自信がなかったらまず触らないのが一番賢明です。
蓮風先生の話の中で、先生が30歳くらいの頃は、癌などの難しい疾患の相談は、しょっちゅう断っていた、というのがあります。
これは臨床家として非常に重要な考え方だと思います。
そのためには、キチッとしたものさしを持つことですね。
おわり
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2018.12.11
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これまでのお話し
参照
さて、続きいきましょう。
石原保秀先生の『死生要訣』には、まだまだ色々な「逆証の腹診所見」が紹介されています。
1.脇肋呼吸
☞肋骨を大きく扇のように動かして呼吸するもの(原南陽(1753-1820) 『叢桂亭医事小言』)
2.脇肋露出
☞肋骨が露出している者(多紀元簡(1754?-1810) →浅田宗伯『先哲医話』下巻に記載)
3.胸腹白疹
☞結核の末期で、喘鳴、浮腫、鼻翼呼吸、胸腹白疹、嗄声の者は10日前後で死す(香川修庵(1683-1755) 『一本堂行余医言』)
・・・だそうです。
皆、墓マイラーで紹介した先生ばかりですね。
香川修庵という人物 参照
・・・上記の腹は、どれも診たことがありますが、3.の「白疹」というのが、ちょっと分かりません。
もしかしたらこれのことを言っているのかもしれませんが、詳細は香川修庵先生に直接聞いてみないと分かりませんね。。。
今日紹介した腹は、呼吸と相まっており、鼻翼呼吸など、西洋医学の教科書でも死戦期の所見として、似たような記載が出てきますね。
続く
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2018.12.10
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「逆証の腹診所見」に関して、以前紹介した石原保秀先生の著作『死生要訣』に再び学んでみましょう。
ここでは、東洋医学の代表的な古典である『千金方』『脈経』『儒門事親』から持ってきて、百病死生訣とし、
1.胸腹積聚+脈虚弱、脈沈、
2.腹腫大+脈長大+四肢逆冷
3.腹腸満便血+脈小
の3つを挙げて下さっています。
腹に腫塊が出来たり、便に出血をみるパターンです。
数ある病気の中でも、腫塊は、どこに出来ても、たとえ西洋医学的に良性であっても、東洋医学的には、あまりいい状況ではありませんね。
「気の停滞」の結果の最たるものといっていいでしょう。
現代では何と言っても癌や動脈瘤なんかが有名ですね。
出血も、場合によっては怖いものも多いです。
昔の東洋医学の医者も、当然こういう「ヤバい所見・症状」を観察していました。
ここで面白いのは、「腹と脈」などを組み合わせて判断しているところです。
腹が邪実なのに脈は正気虚、とか、これが一致してても、全身の気血の偏在と一致してない、とか、こういう、「不可解な不一致」はヤバい、と考えます。
これ、非常に参考になるところですね。
続く
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2018.02.11
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これまでのお話
◆損至脈について
石原保秀著『死生要訣』には、東洋医学の代表古典である『千金方』と『脈経』から引用してきて、「損至脈(そんしのみゃく)」という考え方も紹介されています。
これはちょっと大事なので、書いておきましょう。
まあこれを簡単に言うと、
損脉=遅脈
至脈=数脈
のことです。
・・・なら普通に遅脈、数脈、って言えばいいじゃんか、と思うと思いますが、
損脉(遅脈)の場合は、病が肺→心→脾→肝→腎と上から下に進み、
至脈(数脈)の場合は逆に、病が腎→肝→脾→心→肺と、下から上に進む、
という風に、病の伝変順に特徴がある、という違いがあります。
そしてこの記載は、鍼の聖典の一つといってもいい、『難経』14難にも出てきます。
(・・・というか、『難経』の方が先であり、オリジンですね。)
これについては、『ハイブリッド難経』の中で、割石先生が非常に読み応えのある解説をして下さっています。
(興味のある方はそちらを参照してください。ブリ難の21難までの解説は、いつ読んでも非常に刺激的です。)
順逆を考えた時、上から下に進む病と、下から上に進む病では、後者の方がアブノーマルであり、悪い感じがしますが、『難経』ではそうは書いておらず、
損脉(遅脈)の時に腎を病んでいるものは死ぬ、
至脈(数脈)の時に肺を病んでいるものは死ぬ、
と書いています。
これは、それぞれ伝変の最終段階だから、という意味でしょうけれども、臨床的には
極端な損脉(遅脈)であって腎を病んでいるもの、
極端な数脈(至脈)であって肺を病んでいるもの、
この二つは注意が必要だ、ということです。
・・・ここでなぜ、損至脈に触れたかというと、以前大阪で、私の末期がんの症例発表に関して、藤本新風先生から
「この症例において、損至脈を意識して診ましたか?」
と、質問をいただいたことがあって、妙に印象に残っているんですよね。
何か意味があると感じ、以来、気を付けるようにしています。
続く
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これまでのお話
◆形気のアンバランス
蓮風先生がかつて『鍼灸医学における実践から理論へ パート2』の中で、逆証(予後不良の疾患)の鑑別診断について書いてくださっています。
ここにチラッと、
「脈に形気のアンバランスがあるものは良くない。体格の割に脈が妙に弱いものは、何かのきっかけで頓死することがある。」
と書いて下さっております。
体格もよく、基本的に丈夫であるが、脈を診てみるといかにも頼りない。
まるで、虚弱で病弱な小児のような脈をしている、なんてのは注意が必要です。
逆に言うと、その反対に体格的には頼りなくても、脈がしっかりしているものは治しやすい、とも言えます。
このことは、このブログにも何回か登場している石原保秀先生の『診療夜話 死生要訣』の中にも出てきます。
(かの昭和初期の東洋医学の7人の侍の一人です。カッチョイー(゚∀゚))
そこに、
「経に曰く、形脈と病と相反するものは死す。」
と出てきます。
また、『難経』21難にも、
「經言.人形病脉不病.曰生.脉病形不病.曰死.・・・」
と、出てきます。
簡単に訳しますと、
「経典に、病気だけど脈が普通の人は生きれる、脈が病的で体が普通の人は死ぬ、・・・と記載がある。」
となります。
このような記載は、『黄帝内経素問』方盛衰論(80)、『傷寒論』平脉法篇などにも似た話が出てきます。
☞『黄帝内経素問』方盛衰論(80)
「形氣有餘.脉氣不足.死.脉氣有餘.形氣不足.生.」
☞『傷寒論』平脉法萹
「師曰.脉病人不病.名曰行尸.以無王氣.卒眩仆不識人者.短命則死.人病脉不病.名曰内虚.以無穀神.雖困無苦.」
このように、脈だけが妙に他の情報と食い違う、これが怖いんです。
これもよく覚えておくといいと思います。
続く
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