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ここんとこ、
というお話を書きましたので、ついでなんで、最近花粉症でよく使われている「小青龍湯」についても触れておきましょう。
まあ湯液の話を、私のような実践で使っていない、ズブの素人がするのも実に僭越なんですが、あまりにもこれを処方されていて、しかも効果を感じていないと仰る患者さんを診ることが多いので、
僕自身の備忘録的な意味と、彷徨う患者さんのために、この薬に関する基礎的な内容を書いておこうと思います。
この薬の出典は後漢の時代、あの張仲景が書いた『傷寒論』であります。
小青龍湯は、有名な麻黄湯という漢方薬の加減方と言われます。
(麻黄湯も傷寒論に出てくる薬です。)
麻黄湯も最近、
「インフルエンザに効く!」
とか、
「キムタクが常備してる!」
とかいわれて、非常に有名です。
これについても、後で簡単にまとめておきましょう。
この麻黄湯は、よくカゼのひき始めに使われます。
小青龍湯は、もともとはカゼのひき始めの状態が改善せずに、なおかつ「水邪」が存在する時に使う薬、と、『傷寒論』に定義されています。
『傷寒論』内の条文では
傷寒表不解.心下有水氣.乾嘔發熱而欬.或渇.或利.或噎.或小便不利.少腹滿.或喘者.小青龍湯主之.
傷寒心下有水氣.欬而微喘.發熱不渇.服湯已.渇者.此寒去欲解也.小青龍湯主之.
傷寒表不解.心下有水氣.乾嘔發熱而欬.或渇.或利.或噎.或小便不利.少腹滿.或喘者.宜小青龍湯.
とあり、また『金匱要略』には
病溢飮者.當發其汗.大青龍湯主之.小青龍湯亦主之.
欬逆倚息不得臥.小青龍湯主之.
婦人吐涎沫.醫反下之.心下即痞.當先治其吐涎沫.小青龍湯主之.
とも書いてあります。
漢方薬の専門家でもない僕が、あまり難しい解説をしてもしょうがないし、そもそも出来ないので、要はこれらを簡単に言うと、表面に寒邪があって、
なおかつ心下(みぞおち)に水邪がつっかえてる場合に使う方剤であって、これとは違ったメカニズムで症状の出ている花粉症には効かない、
あるいは害になりかねない、ということになりますね。
また、たまたま合っていたとしても、この薬を服用して、表邪の存在、心下の水気の存在が除去、改善された後になっても、この薬を継続して服用していたら、
今度はまた違った病変に結び付く可能性もあります。
漢方薬はサプリメントなどではなく薬なのであり、素人考えでドラッグストアで買ってきてメチャクチャな使い方をしたりするのは、厳に気を付けたいですね。
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2019.03.05
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ここまでのお話し
小建中湯について 参照
前回、小建中湯の話がエラク中途半端に終わったので、続きを書きます。(^^;)
小建中湯は、実は以前このブログにもチョコッとだけ登場しています。
小建中湯は、桂枝湯のアレンジ版であることは前回お話ししました。
しかし、ここら辺を細かく話していくと、『傷寒論』の太陽病の講義みたいになってしまうので、ここではしません。(^^;)
(興味ある人は、無数に出ている『傷寒論〇〇』という本を5冊くらい買って勉強しましょう。)
小建中湯は、今日では東洋学術出版の『中医臨床のための方剤学』で「脾虚肝乗」という言い方をするように、脾の臓が弱ってしまって、肝の臓とのバランスが崩れたものによく使われます。
もちろん、この薬のもともとの出典は『傷寒論』ですから、寒邪に傷られた傷寒病の、ある段階においても使いますし、これをやって治らなかった場合に小柴胡湯を使う、という流れもあります。
「小柴胡湯」を含む記事 参照
また、『傷寒論』の中の小建中湯適応の脈診所見に「陽脈濇、陰脈弦」という、解釈次第では色々拡大出来るような脈状の表現も出てきます。(*‘∀‘)
あるいは『金匱要略』の中にも、この薬は”虚労病”、”黄疸病”、”婦人病”のところに出てきます。
さらに『金匱要略』では、目的に応じて、小建中湯に黄耆(おうぎ)を加えて「黄蓍建中湯」という薬を提示していたり、少し時代が下って中国唐代、
孫思邈(そんしばく 581?-682)の『千金翼方』では小建中湯に当帰(とうき)を加えた「当帰建中湯」があったり、日本の江戸期、あの華岡青洲(1760-1835)の
『瘍科方筌(ようかほうせん)』では、この「黄蓍建中湯」と「当帰建中湯」を組み合わせて、さらに膠飴を使わずに「帰耆建中湯(きぎけんちゅうとう)」という方剤を創方し、
癌が潰れて膿が止まらず、日々憔悴していくほどの重篤な病人に使用していたようです。
華岡青洲という人物 参照
・・・まあしかしこの、
「肝と脾のバランスが崩れている」
ことが、カゼから花粉症からアトピー、リウマチ、癌まで、あらゆる現代病の根本原因になっていることは、臨床上、実に多いと思います。
ここんとこをシンプルに調整してくれる薬だからこそ、約2000年の風雪に耐えて来れたんでしょうね。
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2019.03.04
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ここまで、中焦(脾胃)の異常に対してよく処方されている漢方薬を、いくつか紹介してきました。
大建中湯について 参照
前回、大建中湯を紹介したので、なんか小建中湯を紹介しないのは気持ちが悪い。。。
・・・ということで、ついでなんで小建中湯を紹介します。(゚∀゚)
(処方されている患者さんも結構いるしね。)
小建中湯も、大建中湯と同じ「温裏剤」のグループです。
出典はもちろんあの『傷寒論』ですから、約2000年の風雪に耐えてきた名方と言えます。
この処方は非常に有名です。
漢方薬の王様の一人と言っていい、「桂枝湯」という薬がありますが、この桂枝湯の中の「芍薬(白芍)」という生薬を倍の量にしたのを「桂枝加芍薬湯」といい、
それに「膠飴(こうい:みずあめ)」を加えたのが「小建中湯」です。
『中医臨床のための方剤学』によれば、効能は温中補虚、和裏緩急、主治は中焦虚寒、脾虚肝乗とあります。
・・・おっと、ここまで書いたら時間切れ。
続きは次回。(笑)
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2019.02.02
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これまでのお話し
「腹哀」という経穴 ⑤ 参照
◆『吉田家腹診秘録』ではどうか。
前回、鍼灸師なら知らない人はいない「夢分流腹診図」において、腹哀穴が位置する「肺先」と呼ばれる部位について、竹下の妄想を少しだけ書きました。
ああいった妄想関係の話は、実はまだまだ至る所に無数にあるんですが、あまり書くと頭のおかしいやつだと思われそうなので、少しにしておきます。(苦笑)
しかし、それで臨床をやった結果、うまくいくことが意外と多いということも付言しておきます。
・・・ところで、蓮風先生が2004年に出版した『鍼灸医学における実践から理論へ パート3』の中で取り上げた、江戸期の腹診書の中に『吉田家腹診秘録』という書物があります。
これを見ると、蓮風先生の本では、腹部陽明経よりも「内側に」反応のある腹証ばかりが紹介されていることに気付きます。
陽明経よりも外、とりわけ腹哀穴に相当する部位に反応のある方剤では、呉茱萸湯と当帰四逆加呉茱萸生姜湯の二方剤の腹証だけです。
呉茱萸湯は『傷寒論』に出てくる処方で、中焦をガッツリと温める、現在でも比較的使われる処方です。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯も『傷寒論』に出てくる処方で、処方構成は当帰四逆湯+呉茱萸+生姜ですから、簡単に言えば血虚+寒邪+寒飲の者に用いる薬で、
中焦を温める働き+補血作用を期待した方剤です。
(あまりにも簡単に説明し過ぎで、湯液家の先生方から怒られそうですが。。。(;’∀’))
中医学ではどちらも「温裏剤」のグループですね。
温裏する必要があるような場合に、心窩部から季肋部にかけて反応が出てくる部位であると、『吉田家腹診秘録』の著者は認識している、ということです。
(因みに、柴胡剤のグループでは、心下は少し下目に、季肋部は少し内側目に描かれているのも興味深いところです。)
図では、呉茱萸湯は左右対称に、当帰四逆加呉茱萸生姜湯の方は右のみに出ています。
(↑↑呉茱萸湯の左右対称については、”此の毒左右同”と強調しています。)
あと、季肋部において陽明経よりも若干外に反応が記載されている処方は「葛根湯毒と陽明の合併の図」と、「太陽と少陽の合病の図」、
「十棗湯」「桂枝人参湯」「小柴胡湯」「大柴胡湯」「柴胡加桂枝湯」「桂枝加大黄湯」では、脾募よりもやや外側に反応が出ることが記載してあり、
これらも場合によっては勘案するべきでしょうね。
(細かい解説は煩雑になるので、ここでは避けます。<m(__)m>)
また上記方剤の多くで、「右側」が強調してあったのも興味深いところです。
夢分流腹診図においても、右の「肺先」の下外側にのみ「膽」の診処が存在しており、ずいぶん前に書きましたが、五藏六府の中の「胆の腑」の特殊性を考えると、
そこに一番近いところに「腹哀穴」が存在していることは、偶然でないと思います。
もうちょっと続く
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2019.01.18
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世の中、インフル狂騒曲ですな。
テレビでもインフルインフル・・・。
ラジオでもインフルインフル・・・。
ネットでもインフルインフル・・・。
そしてお決まりの「予防接種って、意味あるんですか?」っていう、毎年恒例の質問も乱れ飛ぶ。(苦笑)
僕は今年の正月、狭い個室居酒屋で、おそらくインフルに罹患済みであったろう友人二人(飲んでいる時はじゃっかんカゼ気味で、二人とも翌日高熱で寝込んだ)と、
近い距離で長時間飲んでいましたが、まったく罹患しませんでした。(゚∀゚)
患者さんでも、
「インフルエンザなので、2、3日寝て、動けるようになったら治療に行きます。」
というキャンセルの電話をくれる人もいれば、
「インフルエンザなんですけど、診てもらえますか?」
という人もいます。(笑)
東洋医学で、鍼灸でやってくれと言われれば、僕はやります。
インフルエンザでも、あまりにも毒性が強いようなものであれば東洋医学的には「疫癘の邪気」という扱いになるんでしょうけども、毎年巷で流行する、
タミフルやリレンザやイナビルやゾフルーザやラピアクタが効いて、2、3日で回復するようなものであれば、通常の感冒と同じように、『傷寒論』『温病学』の考え方で対応し、
うまくいったケースはこれまでにも数多く経験しています。
基本的な六経弁証、衛気営血弁証、三焦弁証が大事ですね。
ただ、通常の風寒や風熱と比較すると、やはり邪気の勢いが強いのは強いようで、数脈が緩まない、あるいは緩んでもすぐに戻るものは要注意だと思います。
「感染症に鍼灸は効かない!」と、頭ごなしに言われますが、本来は西洋医学とも積極的に協力できるところだと思うんですがね。。。
まあもちろん、こういうものを扱えるだけの学術がないのに触ったら、危険でしかないのは言うまでもないですが。
『傷寒論』『温病学』を読んでおり、六経弁証、衛気営血弁証、三焦弁証について理解し、これを鍼灸で臨床応用出来る鍼灸師が、日本にどれくらいいるかを考えたら、
仕方ないことかもしれませんね。
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2018.09.16
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これまでのお話・・・
前回、森道伯先生が、大正時代に世界的に流行したスペインかぜ(強毒性のインフルエンザ)に対して、漢方薬で効果を挙げていたことを紹介しました。
また、ずいぶん前ですが、このブログ上で、広州中医薬大学の鄧鉄濤(とうてっとう)先生が、2002年から2003年にかけて世界中に感染者を出した
SARS(重症急性呼吸器症候群)に立ち向かって、漢方薬で効果を挙げたという話も書きました。
鍼灸でも、以前に蓮風先生が非結核性好酸菌症の症例を、内科医の村井和先生とともに『鍼灸ジャーナル 7号』に発表したことがあります。
日本では残念ながら論文数は少ないですが、中国韓国台湾を探せば、鍼灸で感染症を扱って効果を得たものは、他にもあるんじゃないでしょうか。
東洋医学は感染症に無力、と切って捨てる人がたまにいますが、果たしてそうでしょうか・・・?
むしろ東洋医学の歴史は、感染症との闘いの歴史なんじゃないんでしょうか?
現代の新興感染症にも使える叡智が多分に含まれているのではないでしょうか。
・・・で、今日は、一貫堂医学の番外編でもないが、東洋医学の感染症に対する考え方を述べてみましょう。
(一社)北辰会が理論と用語のベースとしている現代中医学の「弁証論治」という基本的な考え方ですが、これの大本は『傷寒論』を著した後漢の張仲景(150?-219)と言われます。
(”弁証論治”という言い方自体が、『傷寒論』の”弁〇〇病脈証并治”という言い方から来ているとか。。。)
・・・で、その『傷寒論』の内容は、『傷寒論』よりさらに前の『黄帝内経素問』の「熱論(31)」の内容や、『難経』58難が元になっていると言われます。
『黄帝内経』よりもさらに以前は、「病気」というのは、悪霊や鬼が患者に憑りついたもの、と考えられており、治療はもっぱら祝由(お祈り、呪い)であったようです。
それを『黄帝内経』では、この世界の全ては「気」から出来ているという「気一元の世界観」、そしてそこに働いている法則性である「大極陰陽論」を前提として、
自然現象である、人間の生老病死の「病→死」を、自然界、あるいは人体内にある「邪気」が、人体の「正気」を傷っていく過程、と考えるようになり、
そしてその「邪気」にはパターン分類があり、人体の側にもまた体質分類があり、それを適切に噛み分けて、何がどうなって病になっているのかを考え、
戦略的に治療すれば、病治しができる、という、医学医術の革新(ある意味科学化)を行いました。
それ以来、その枠組みを前提とした、様々な学説や治療法が開発され、その数千年に渡る膨大な臨床事実の集積は「中国伝統医学」と呼ばれ、
現代にまで脈々と受け継がれている訳ですが、この「邪気」という考え方の中でも、自然界にある外来の邪気、つまり「外邪」と呼ばれるものが、
現代の西洋医学の言う「細菌」や「ウイルス」のことを含む概念です。
(ザッと書いたので、もし間違っていたらご指摘ください。<m(__)m>)
・・・で、東洋医学における感染症の捉え方、治し方は、蓮風先生が以前よく仰っていたことですが、
「ここにアサガオの種があったら必ず発芽するわけではないように、種子が発芽するには土、水、空気などなど、それなりの条件が整わないと発芽しない。
感染症もこれと同様で、細菌やウイルスがあったら必ず発病する訳ではないように、発病しないように、また、発病しても軽く済むように、
患者の側を調えればいいのだ。
細菌やウイルスを顕微鏡レベルで分類し特定して、それを死滅させる、あるいは人体の側を強制的にそれに反応しないようにせしめるのが西洋医学、
それらが増殖しにくいような体内の状況を調えるのが東洋医学、という違いがある。」
ということです。
もちろん、細菌やウイルスがキチッと特定できて、抗生剤などの治療法も確立されているような感染症であれば、西洋医学のやり方は非常に優れていると思いますが、
中にはうまくいかないものもあります。
そういう時に、意外と効果を発揮するのが、東洋医学の論理と手法だと思います。
森道伯先生も鄧鉄濤先生も、そこんところを良く分かっていたんだと思います。
次回、ついでなんで、矢数道斎先生が若い頃、森道伯先生に、マラリアと肺炎の治療を実際に受けた話を書いておきましょう。
続く
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2018.09.15
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これまでのお話・・・
さて、マニアックな話、ドンドンいきましょう。
ドンドン読者を置いていきます。
そしてみんな離れていって、終いには一人になりそうです。(爆)
・・・ともかくここまで、一貫堂医学における「三大体質・五大処方」について書いてきました。
よく勘違いされがちなこととして、
「一貫堂って、全ての患者を3つの体質に分類するんでしょ?それも全部実熱でしょ??そんなん、無理あるっしょ~~!!(;’∀’)」
というミスリード。
普通に考えて、そこだけ切り取って、名医・森道伯を語れる訳ないですね。(・ω・)ノ
矢数道斎(格)先生のまとめた『漢方一貫堂医学』には、森道伯先生のほぼ晩年の3年間のカルテに使った方剤が集積して一覧表にしてありますが、
当然ながら「それ以前の」数十年がある訳です。(笑)
まあ、色々な症例やエピソードがあると思うんですが、有名なのは「スペインかぜVS森道伯」のエピソードでしょう。
まず「スペインかぜ」を簡単に説明しますと、1918年~1919年(大正7年~8年)にかけて起こった、アメリカ発の強毒性インフルエンザのパンデミック(世界的大流行)です。
アメリカ発なのにスペインかぜと呼ぶのは、情報源がスペインだったから、だそうです。
ちょうどこの時は第一次世界大戦(1914~1918)の末期であり、このスペインかぜが大戦を早期に集結させた要因の一つである、という見方もあるぐらいの大事件であったようです。
そのくらい被害は大きく、全世界で5億人が感染、死者は5千万人~1億人、とも言われています。
日本にも被害が広がり、現在タレント論客として活躍している竹田恒泰さんの曾祖父君にあたる竹田宮恒久王をはじめ、多くの日本人が感染しました。
この時、森道伯先生はスペインかぜを3つに分類し、
胃腸型・・・香蘇散+茯苓・白朮・半夏
肺炎型・・・小青竜湯+杏仁・石膏
脳症型・・・升麻葛根湯+白朮・川芎・細辛
で治療し、たいへん効果を挙げたそうです。
これらも、現在でもよく使われる、割かしなんてことない処方なんですが、この処方からしても、決して実熱のみを重視していたなんて思えません。
スペインかぜの弁証論治を、非常にシンプルな形に落とし込んだように見えます。
因みに各方剤の出典は、
香蘇散は北宋の国定処方集である『和剤局方』、
小青竜湯は後漢の張仲景(150?-219)による『傷寒論』、
升麻葛根湯は『閻氏小児方論』という本が出典で、有名な葛根湯の変方かと思いきや、やや似て非なる配合の薬です。(笑)
僕のPCに入れてある『東洋医学辞書』では
葛根湯は葛根5.0・麻黄・大棗各4.0・桂枝・芍薬・生姜各3.0・甘草2.0
升麻葛根湯は葛根5.0・芍薬3.0・升麻・乾生姜各2.0・甘草1.5
と出てきますが、『中医臨床のための方剤学』では
葛根湯は葛根12g・麻黄、生姜9g・桂枝、炙甘草、白芍、大棗6g
升麻葛根湯は赤芍6g・升麻、葛根、炙甘草3g
と、ずいぶん違います。
こういうの(同じ方剤名でも時代や文献で構成生薬が違う)も、方剤学のややこしいところですね。(苦笑)
まあともかく、
香蘇散は風寒表証+気滞の薬で、現代ではストレスからくる肩凝りだの胃もたれだのといった、肝鬱や肝胃気滞によく使われる薬です。
小青竜湯は風寒表証+脇下の水飲の薬で、現代では「くしゃみ三回小青竜」な~んていう、実に胡散臭い謳い文句があって、花粉症によく使われる薬なんですが、
何も考えずに長期服用すれば徐々に内熱が籠っていき、別の病を形成します。(~_~;)
西洋薬と比べて、副作用がなくて眠くならないから助かるわ、な~んつって、冬から春に長期服用している患者さん、ホントに多いです。
升麻葛根湯は、小児の麻疹(はしか)の薬として有名で、肺胃の熱毒を叩く薬です。
これらを強毒性のインフルエンザに巧みに応用した訳ですね。
・・・まあいずれにせよ、よく後世派と言われる一貫堂ですが、古方派の使うような方剤も臨機応変に臨床応用していたことが分かります。
(そういえば後世派、古方派についても書いてなかったですね。いい機会なんでこれが終わったら書きましょう。)
次回、感染症に対する東洋医学の考え方を書きます。
続く
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2018.09.09
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前回、一貫堂医学の基本中の基本である、「三体質・五処方」を紹介しました。
今日はこのうちの「瘀血体質」なるものについて少し掘り下げましょう。
「瘀血」という病理産物については、東洋医学では誰でも知っているような重要な概念で、このブログでもチョイチョイ登場しています。
まあ要するに、「使いもんにならん、停滞した血(けつ)」のことです。
あらゆる病気、症状に関わり、あらゆる病気、症状を治りにくくする、病理産物であります。
一貫堂医学では、これを叩くことを治療、予防の3本柱の一つとして、非常に重視してるわけです。
一貫堂のいう瘀血体質というのをもう少し詳しく述べると、要は「体内に停滞した血液を持っている者」のことであり、血液の多くは腹部にあることから、
腹部、それも下腹部、骨盤内(それも左側)に瘀血が停滞しやすい、特に閉経後や月経不順のある婦人に多いと考え、皮膚の色、脈診、腹診などで判断するようです。
(皮膚は赤ら顔、爪は暗赤色、あるいは貧血して黄白色、脈は細実、腹は臍周に緊張、腹直筋が緊張など)
瘀血体質の患者がかかり易いのは脳溢血、片麻痺、喘息、胃腸病、肝臓病、肺結核、痔疾、淋疾、精神疾患、婦人病などなど、とのことです。
(幅ひろー(゜o゜))
・・・で、これらを通導散加減で治療します、と。
通導散というのは、中国明代、16~17世紀を生きたと言われる龔廷賢(きょうていけん 生没年不詳)の著作である『万病回春』に所収されている処方で、
現代でも超有名な駆瘀血剤(瘀血を取り去る薬)です。
この『万病回春』は、江戸時代の日本人の医師に広く読まれた古典であり、極めて実践的な内容で、あの和田東郭や、原南陽も高く評価しているそうです。
つい最近、1989年になって、大塚敬節先生の指示を受けた松田邦夫先生が全訳解説本を出版されたことでも知られています。
この通導散は、『傷寒論』の陽明病の薬として有名な大承気湯に当帰、紅花、甘草を加えた加味承気湯に、さらに蘇木、枳殻、陳皮、木通を加えたもので、
気の停滞、瘀血を取り去る力の強い薬です。
(『万病回春』の原文には”童便、黄酒各一鍾で温服すべし”とありますが、”童便”ってまさか。。。( ;∀;))
・・・で、私は鍼師ですので、さてこれを、鍼でやるならどうするか、という問題にぶち当たる訳ですが、北辰会では瘀血証には三陰交、膈兪、血海、臨泣などを瀉法で使いますが、
通導散のイメージに一番近いものとなると、この中では臨泣でしょうかね。。。
ただし「上手にやれば」ですね。(ΦωΦ)
続く
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2018.06.22
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今日はやたら「ノド痛」を訴えて来院される患者さんが多かったですね。
(10人以上診たかな?)
まあこれも、東洋医学的には色々な病態があります。
「ノド痛=〇〇というツボ!」
「ノド痛=〇〇という漢方!」
みたいなのが東洋医学だと思わないで下さいね。(苦笑)
そんなもんじゃないすよ。(^^;)
咽喉部には様々な経絡が流れています。
どの経絡の異常でも、「ノド痛」は起こりえます。
咽喉痛は、患者さんに聞くと、「今朝から」とか、「さっきから」とか、「昨日の夜から」とかという風に、急性に起こることが多く、こういう急性病というのは、
多くは外邪、例えば「温熱邪」による侵襲、つまり「表熱証」といわれるものであったり、「風寒邪」による侵襲、つまり「表寒証」といわれるもので、
結果的に咽頭部の気血の流れが凝滞する、あるいは表面が冷えたために、内熱の逃げ場が無くなって結果的に咽頭部に籠る、そういう、外邪に由来する咽頭痛が多いです。
また、それ以外にも、寝不足してから、とか、強いストレスがあってから、暴飲暴食してから、とか、そういう、外邪以外の成因によって起こるものもあり、
さらには、外からの問題と内からの問題が相まって起こっているものも臨床では多々あります。
因みに『傷寒論』におけるノド痛「喉痺(こうひ)」の弁証論治に関して、かつて蓮風先生が『実践から理論へ パートⅠ』の中で纏めて下さっています。
こういうことを分かったうえで、多角的にキチッと分析して治療しないと、なかなかパッと治せません。
配穴も手法も、千差万別です。
ところで、西洋医学的に考えても、ここは免疫機構の最前線基地といってもいい「扁桃」という重要な組織がある場所であり、ここの炎症は大火事のもとです。
因みに鍼灸師であれば誰でも知っていると思いますが、「長野式治療法」で有名な、2001年に亡くなった大分の鍼灸師である長野潔先生が生前強く訴えておられた「扁桃病因論」なんかも有名ですね。
また、扁桃炎と咽頭炎、喉頭炎など、炎症が起こっている場所や、ウイルス性か細菌性かなど、炎症を起こしている原因によっても、治療は異なり、
西洋医学でも重要視している症状でしょう。
数年前から北辰会に鍼灸の勉強に来られている児玉和彦先生が、以前小児の咽頭炎に関する論文を書いておられましたね。
よく見かける症状だけど、キチッと分析してパシッと治すには、けっこう厳密な基礎力が問われます。
患者さんからしたら、一見全く関係なさそうな手や足のツボに一本鍼をして、パッとその場でノドが楽になるなんてのは、スーパーファンタジーです。(笑)
なんか今日は鍼の神に
「もっと、基礎の厳密さを!」
と言われた感じがしました。(苦笑)
精進します。(感謝合掌)
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2018.06.19
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まず、昨日の大阪北部の地震の被害に遭われた方、色々と大変でしょうし、しばらくは余震で不安でしょうけども、何とか冷静に、十二分に備えて下さい。
こないだの群馬といい、もはや日本に安全なところはないですね。
僕のいる東京だって、いつ来るやら分かりません。
因みにこないだの群馬の地震は、思いっきり震源地が実家の近くでした。(苦笑)
幸い、被害は大したことなかったようですが、群馬で大きな地震があるなんて、珍しすぎます。
(観測史上初だそうです。)
・・・しかしまあ、こればっかりは、火山列島である日本の宿命ですから、十二分に備えておき、実際に起こってしまったら、冷静に冷静に、
最大限の対処をするしかないですね。。。
(全国いたる所に温泉があるという、良いところもある!)
〇
6.17の日曜日は、大阪で行われた(一社)北辰会エキスパートコースに参加してきました!!
午前中は愛媛の水本淳先生の「シリーズ傷寒雑病論 22」です。
水本先生と初めてお話させていただいたのは、かれこれ15年以上前だと思いますが、傷寒論をあそこまで勉強している鍼灸師、いるんだろうかと思ってしまうぐらい、
水本先生の傷寒論に対する知識、研究量は素晴らしいです。
今回、久しぶりに聴きましたが、まあ一応、「プロの講師の端くれ」という目線で見ても、水本先生は以前よりも、聴講者の皆さんが、緊張感を持って、
話に付いて来れるような工夫を非常にされているなあ、と思いました。
僕よりも全然人生の大先輩ですが、あの向上心、向学心、謙虚な姿勢は、いつ見ても本当に素晴らしいと思います。
今回は臨床上非常に多い、瀉心湯(特に柴胡と黄連を絡めて)のお話を、過去の蓮風先生の講義の話しとも絡めて、非常に上手に進めて下さいました。
午後は和歌山の内科医の村井和先生による症例報告「乳がんの3症例」。
これは2例が村井先生の症例、1例が藤本蓮風先生の症例で、3例ともに鍼灸が著効したと考えられる症例でした。
先日大阪で行われた、(一社)日本東洋医学会で村井先生が発表された内容を、少し詳しく説明して下さいました。
その後、蓮風先生から難病治療における心構えについて講義がありました。
北辰会方式の鍼灸治療が、こういった疾患に大きな効果がある可能性があるということは経験的に事実だとは思うが、生半可な勉強量、経験量なら手を出すな、
また、もし分からないことがあったら必ず先輩に相談すること、などといった、基本的だけどたいへん重要なことを話されていました。
因みに今回、蓮風先生は北辰会の会長になり、新風先生が新たに代表理事になりました。
いよいよ本格的に世代交代ですね。
少し寂しいようですが、喜ばしいことだと思います。
その後、新風先生による刺鍼実技。
新風先生の刺鍼は、非常に繊細です。
また、経穴の意味に関して、『経穴解説』にも書いてない、新たな示唆を与えてくれました。
(太白と公孫、陰陵泉、陽陵泉に関しては実に興味深いことを仰っていましたね。)
最後は実技。
非常に敏感なモデル患者の先生に対する診立てと鍼の微妙な加減、そして、独特の効かせ方をなさる先生の実技、とても素晴らしかったです。
朝から非常に盛りだくさんな内容で、大満足の1日でした。
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