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これまでのお話・・・
前回、森道伯先生が、大正時代に世界的に流行したスペインかぜ(強毒性のインフルエンザ)に対して、漢方薬で効果を挙げていたことを紹介しました。
また、ずいぶん前ですが、このブログ上で、広州中医薬大学の鄧鉄濤(とうてっとう)先生が、2002年から2003年にかけて世界中に感染者を出した
SARS(重症急性呼吸器症候群)に立ち向かって、漢方薬で効果を挙げたという話も書きました。
鍼灸でも、以前に蓮風先生が非結核性好酸菌症の症例を、内科医の村井和先生とともに『鍼灸ジャーナル 7号』に発表したことがあります。
日本では残念ながら論文数は少ないですが、中国韓国台湾を探せば、鍼灸で感染症を扱って効果を得たものは、他にもあるんじゃないでしょうか。
東洋医学は感染症に無力、と切って捨てる人がたまにいますが、果たしてそうでしょうか・・・?
むしろ東洋医学の歴史は、感染症との闘いの歴史なんじゃないんでしょうか?
現代の新興感染症にも使える叡智が多分に含まれているのではないでしょうか。
・・・で、今日は、一貫堂医学の番外編でもないが、東洋医学の感染症に対する考え方を述べてみましょう。
(一社)北辰会が理論と用語のベースとしている現代中医学の「弁証論治」という基本的な考え方ですが、これの大本は『傷寒論』を著した後漢の張仲景(150?-219)と言われます。
(”弁証論治”という言い方自体が、『傷寒論』の”弁〇〇病脈証并治”という言い方から来ているとか。。。)
・・・で、その『傷寒論』の内容は、『傷寒論』よりさらに前の『黄帝内経素問』の「熱論(31)」の内容や、『難経』58難が元になっていると言われます。
『黄帝内経』よりもさらに以前は、「病気」というのは、悪霊や鬼が患者に憑りついたもの、と考えられており、治療はもっぱら祝由(お祈り、呪い)であったようです。
それを『黄帝内経』では、この世界の全ては「気」から出来ているという「気一元の世界観」、そしてそこに働いている法則性である「大極陰陽論」を前提として、
自然現象である、人間の生老病死の「病→死」を、自然界、あるいは人体内にある「邪気」が、人体の「正気」を傷っていく過程、と考えるようになり、
そしてその「邪気」にはパターン分類があり、人体の側にもまた体質分類があり、それを適切に噛み分けて、何がどうなって病になっているのかを考え、
戦略的に治療すれば、病治しができる、という、医学医術の革新(ある意味科学化)を行いました。
それ以来、その枠組みを前提とした、様々な学説や治療法が開発され、その数千年に渡る膨大な臨床事実の集積は「中国伝統医学」と呼ばれ、
現代にまで脈々と受け継がれている訳ですが、この「邪気」という考え方の中でも、自然界にある外来の邪気、つまり「外邪」と呼ばれるものが、
現代の西洋医学の言う「細菌」や「ウイルス」のことを含む概念です。
(ザッと書いたので、もし間違っていたらご指摘ください。<m(__)m>)
・・・で、東洋医学における感染症の捉え方、治し方は、蓮風先生が以前よく仰っていたことですが、
「ここにアサガオの種があったら必ず発芽するわけではないように、種子が発芽するには土、水、空気などなど、それなりの条件が整わないと発芽しない。
感染症もこれと同様で、細菌やウイルスがあったら必ず発病する訳ではないように、発病しないように、また、発病しても軽く済むように、
患者の側を調えればいいのだ。
細菌やウイルスを顕微鏡レベルで分類し特定して、それを死滅させる、あるいは人体の側を強制的にそれに反応しないようにせしめるのが西洋医学、
それらが増殖しにくいような体内の状況を調えるのが東洋医学、という違いがある。」
ということです。
もちろん、細菌やウイルスがキチッと特定できて、抗生剤などの治療法も確立されているような感染症であれば、西洋医学のやり方は非常に優れていると思いますが、
中にはうまくいかないものもあります。
そういう時に、意外と効果を発揮するのが、東洋医学の論理と手法だと思います。
森道伯先生も鄧鉄濤先生も、そこんところを良く分かっていたんだと思います。
次回、ついでなんで、矢数道斎先生が若い頃、森道伯先生に、マラリアと肺炎の治療を実際に受けた話を書いておきましょう。
続く
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2018.09.15
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これまでのお話・・・
さて、マニアックな話、ドンドンいきましょう。
ドンドン読者を置いていきます。
そしてみんな離れていって、終いには一人になりそうです。(爆)
・・・ともかくここまで、一貫堂医学における「三大体質・五大処方」について書いてきました。
よく勘違いされがちなこととして、
「一貫堂って、全ての患者を3つの体質に分類するんでしょ?それも全部実熱でしょ??そんなん、無理あるっしょ~~!!(;’∀’)」
というミスリード。
普通に考えて、そこだけ切り取って、名医・森道伯を語れる訳ないですね。(・ω・)ノ
矢数道斎(格)先生のまとめた『漢方一貫堂医学』には、森道伯先生のほぼ晩年の3年間のカルテに使った方剤が集積して一覧表にしてありますが、
当然ながら「それ以前の」数十年がある訳です。(笑)
まあ、色々な症例やエピソードがあると思うんですが、有名なのは「スペインかぜVS森道伯」のエピソードでしょう。
まず「スペインかぜ」を簡単に説明しますと、1918年~1919年(大正7年~8年)にかけて起こった、アメリカ発の強毒性インフルエンザのパンデミック(世界的大流行)です。
アメリカ発なのにスペインかぜと呼ぶのは、情報源がスペインだったから、だそうです。
ちょうどこの時は第一次世界大戦(1914~1918)の末期であり、このスペインかぜが大戦を早期に集結させた要因の一つである、という見方もあるぐらいの大事件であったようです。
そのくらい被害は大きく、全世界で5億人が感染、死者は5千万人~1億人、とも言われています。
日本にも被害が広がり、現在タレント論客として活躍している竹田恒泰さんの曾祖父君にあたる竹田宮恒久王をはじめ、多くの日本人が感染しました。
この時、森道伯先生はスペインかぜを3つに分類し、
胃腸型・・・香蘇散+茯苓・白朮・半夏
肺炎型・・・小青竜湯+杏仁・石膏
脳症型・・・升麻葛根湯+白朮・川芎・細辛
で治療し、たいへん効果を挙げたそうです。
これらも、現在でもよく使われる、割かしなんてことない処方なんですが、この処方からしても、決して実熱のみを重視していたなんて思えません。
スペインかぜの弁証論治を、非常にシンプルな形に落とし込んだように見えます。
因みに各方剤の出典は、
香蘇散は北宋の国定処方集である『和剤局方』、
小青竜湯は後漢の張仲景(150?-219)による『傷寒論』、
升麻葛根湯は『閻氏小児方論』という本が出典で、有名な葛根湯の変方かと思いきや、やや似て非なる配合の薬です。(笑)
僕のPCに入れてある『東洋医学辞書』では
葛根湯は葛根5.0・麻黄・大棗各4.0・桂枝・芍薬・生姜各3.0・甘草2.0
升麻葛根湯は葛根5.0・芍薬3.0・升麻・乾生姜各2.0・甘草1.5
と出てきますが、『中医臨床のための方剤学』では
葛根湯は葛根12g・麻黄、生姜9g・桂枝、炙甘草、白芍、大棗6g
升麻葛根湯は赤芍6g・升麻、葛根、炙甘草3g
と、ずいぶん違います。
こういうの(同じ方剤名でも時代や文献で構成生薬が違う)も、方剤学のややこしいところですね。(苦笑)
まあともかく、
香蘇散は風寒表証+気滞の薬で、現代ではストレスからくる肩凝りだの胃もたれだのといった、肝鬱や肝胃気滞によく使われる薬です。
小青竜湯は風寒表証+脇下の水飲の薬で、現代では「くしゃみ三回小青竜」な~んていう、実に胡散臭い謳い文句があって、花粉症によく使われる薬なんですが、
何も考えずに長期服用すれば徐々に内熱が籠っていき、別の病を形成します。(~_~;)
西洋薬と比べて、副作用がなくて眠くならないから助かるわ、な~んつって、冬から春に長期服用している患者さん、ホントに多いです。
升麻葛根湯は、小児の麻疹(はしか)の薬として有名で、肺胃の熱毒を叩く薬です。
これらを強毒性のインフルエンザに巧みに応用した訳ですね。
・・・まあいずれにせよ、よく後世派と言われる一貫堂ですが、古方派の使うような方剤も臨機応変に臨床応用していたことが分かります。
(そういえば後世派、古方派についても書いてなかったですね。いい機会なんでこれが終わったら書きましょう。)
次回、感染症に対する東洋医学の考え方を書きます。
続く
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2018.09.14
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これまでのお話・・・
さて、ここまでで、森道伯先生を創始者とする「一貫堂医学」が提唱する「三大体質・五大処方」なるものの基本を説明してきました。
一応断っておきますが、私は鍼灸家であって漢方家ではないので、漢方薬の処方解説はあくまでも理論面しか出来ませんし、鍼灸臨床に置き換えて説明することしかできません。
これまでに出てきた漢方薬それぞれ、実際の実践面、臨床面でどうか、というのは、漢方家の先生方にお任せ致します。<m(__)m>
僕のすべての言説は、あくまでも市井の一鍼灸臨床家の視点からのものであります。
・・・しかしまあ、いつものことなんですが、こうやって東洋医学の真面目な内容を書いていると、アクセス数が減りますなあ~~。(~_~;)
(苦笑・・・みんな、勉強嫌いなのね。)
・・・でもいいです、めげずに書きます!!<(`^´)>
書きたいから書く、言いたいこと言う!!(゚∀゚)
五大処方のうち、前回述べた「解毒証体質」に使われる3つの方剤(柴胡清肝散、荊芥連翹湯、竜胆瀉肝湯)は全て、「温清飲」という薬をベースにしています。
この温清飲は、現代では「アトピー性皮膚炎」の患者さんに使用されていることが多いようです。
・・・ところが、最初から単純に効いていなかったり、ある程度までは効いていても、途中で効かなくなったり、あるいは途中から悪化していったり、
と仰って、清明院にみえる患者さんがチラホラいます。
これについて、どういうことか考えてみましょう。
まず温清飲の中身は、当帰・地黄・芍薬・川芎各3.0g、黄連・黄芩・梔子・黄柏各1.5g、だそうです。
上記の当帰~川芎の部分が四物湯の内容、黄連~黄柏の部分が黄連解毒湯の内容です。
配合の分量の比率を単純に見れば、「四物湯>黄連解毒湯」と読めます。
四物湯とは、補血剤(血を補う薬)の代表格で、主に肝の臓の血(肝血)を補う薬だそうです。
黄連解毒湯は清熱剤(熱を冷ます薬)の代表格で、上焦~下焦まで、三焦に瀰漫した邪熱(実熱)を取り去る薬だそうです。
ということは、温清飲は「肝血虚>邪熱」の虚実挟雑証の場合に使える薬、と考えていいのでしょう。
(・・・まあ、そう一概に言えない面もあるかもしれないが)
だとすると、経過中に「肝血虚<邪熱」のように、主従が入れ替わった時、あるいは「血虚」や「邪熱」が解決して、どちらか一方のみの問題になった時、
あるいは「陰虚」や「気虚」「陽虚」「湿熱」「湿痰」などの、肝血虚や邪熱とは別の病理が主になった時には、サッと方剤をチェンジ(変方)しないと、
効かない、あるいは悪化する、という流れになるのは自明です。
(または、そもそも最初からこういう診立て自体が出来ておらず、病名や症状のみからテキトーに処方したのであれば、最初からいきなり悪化することもありえます。)
まあ、臨床上よく見かけるのは、四物湯の成分が中焦を余計に重たくしたり、黄連解毒湯の成分が脾気や腎気を奪ったり、裏の水滞がきつくなって、
肌膚に津液が行き渡らなくなり、そのせいで見かけ上は余計に皮膚が乾燥して悪化したり、というようなケースが多いように思います。
(熱が取れるはずが、余計に皮膚が乾燥して「なんで??」ってやつね。)
病気、それも慢性で難治性の病気となれば、こういう、その時々での変化流転は当たり前なので、鍼灸でも、このような失敗をしないために、初診時にキッチリと問診を取っておき、
治療に来た現時点での「証」のみでなく、現症に至った「病因病理」をキチンと意識しておくことが大事なのです。
とりわけ、皮膚科疾患の場合、中医学でよくいう「皮損弁証」というような、皮膚の状態(乾燥、熱感、発赤、腫脹等々の有無)を意識した診察ももちろん大事ですが、
かといって皮膚の状態「のみ」から診たてただけの、場当たり的な処方、処置は実に危険です。
要は皮膚が「何で」そんな状態になったのか、というメカニズムを考え、時々刻々と変化する患者さんの状態に合わせて、臨機応変に処方、処置を変えていかないと、
とてもついていけません。
アトピーや喘息なんかの場合、そうやって常に先手先手が打てなかったら、普通に負けます。。。(苦笑)
患者さんから、ヤブ医者!ヘタクソ!アホ!ボケ!カス!!です。。。(苦笑)
また、この辺の詳しい話は、山口の村田先生のブログが非常に参考になります。
(膨大な内容ですが、単語で検索ができるので、漢方薬名や病名で色々検索してみて下さい。あっという間に朝になりますよ。(笑))
ドラッグストアで簡単に漢方薬が手に入る昨今、ネットで得た情報から、素人考えでサプリメント感覚で服用して大失敗をしていたり、知ったかぶりの西洋医学のドクターから、
いい加減な処方を繰り返されて、かえって悪化している患者さんを診ると、実に残念な気持ちになります。
東洋医学(鍼灸漢方)は医学ですので、それ専門に何年も、何十年も学び、経験を積んだ先生にしか、本当の意味では使いこなせません。
まずは、せめてそこんところをよくよく理解しましょう。
続く
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2018.09.12
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これまでのお話・・・
一貫堂医学について 3 参照
さて、今日は三大体質の3つ目、解毒証(げどくしょう)体質について掘り下げます。
(矢数先生・・・、このネーミング、”臓毒証”と紛らわしいんすけど。。。(苦笑))
一貫堂の言う解毒証体質とは、四物黄連解毒剤がフィットする体質のことを言うそうです。
(黄連解毒湯の”解毒”という言葉をとって”解毒証体質”と呼ぶことにしたんだそうです。)
「四物黄連解毒剤」とは、「四物湯」と「黄連解毒湯」を合わせた薬のことで、現代日本の薬局等でも簡単に手に入る「温清飲」というお薬のことです。
簡単に言えば、黄連解毒湯は火熱を取る清熱材、四物湯は血を補う補血剤、この二つを組み合わせた薬が「温清飲」です。
・・・で、一貫堂医学の言う「解毒証体質」の”毒”とは、第一に「結核性毒」のことを言うんだそうです。
ここで、普通の中医学を学んできた者にとっては
「へ?黄連解毒湯の毒が結核毒??なんのこっちゃ??」
となるのが普通だと思いますが、この時代の結核は、予防も治療も、非常に重要な病でした。
国民皆保険もなかった時代、歴代の有名な鍼灸家、漢方家の先生の中には、当時西洋医学が治せなかった結核を、鍼灸漢方で治してもらったのをきっかけに、
鍼灸医、漢方医になったという先生がたくさんおられるようです。
大正、昭和初期の時代の医師にとって、結核を如何に予防するか、なってしまったら如何に治すか、これが非常に大事なポイントだったんでしょうね。
そしてこの「解毒証体質」は、年齢によって3つの方剤を使い分けるようです。
すなわち、小児期は柴胡清肝散、青年期は荊芥連翹湯か竜胆瀉肝湯を使い分ける、といった感じです。
まず柴胡清肝散ですが、これは各時代の書物によって微妙に生薬の配合が違うようですが、一貫堂では上記の温清飲に桔梗、薄荷葉、牛蒡子、天花粉を加えたものだそうで、
要するに「肝経、胆経、三焦経の3つの経絡の風熱邪を叩く薬」なんだそうです。
これらの経絡が喉頭、頚部、耳周辺を流注することから、ここに熱を籠らせないようにし、扁桃炎、中耳炎を起こさせないようにすることが、
幼児期の結核を予防、治療する上で非常に重要と考えたのでしょう。
次に荊芥連翹湯ですが、これも柴胡清肝散の変法であります。
(構成生薬の詳細は、ちょっと複雑なのでここでは省略します。)
これは何を狙っているというと、解毒証体質の場合、小児期は扁桃炎や中耳炎を起こしやすいが、青年期になると蓄膿症を起こすようになると考え、
柴胡清肝散が肝経、胆経、三焦経を狙っているのに対して、より「陽明経(顔面部)の風熱邪にターゲットを寄せている」のだそうです。
(要は上の横か、上の前か、です。)
最後に竜胆瀉肝湯ですが、これも歴代の医家によってそれぞれ生薬の配合が異なるようですが、一貫堂処方では、
「肝を瀉して水邪を捌き、肝を瀉す力を四物湯で少し緩めている方剤」
と、言うことが出来るようです。
解毒証体質者の場合、淋病や睾丸炎、外陰部の炎症など、下焦を病むことも多く、一貫堂処方の竜胆瀉肝湯は、その治療、予防のために長期服用も可能な体質改善薬であるそうです。
まあここまでを簡単にまとめれば、柴胡清肝散であれ、荊芥連翹湯であれ、竜胆瀉肝湯であれ、一貫堂が解毒証体質に用いる薬の大本は「温清飲」なわけです。
・・・で、「温清飲」は清熱解毒の「黄連解毒湯」+補血の「四物湯」です。
「黄連解毒湯」の初出は752年、王燾(おうとう 670?-755)が著した『外台秘要』、「四物湯」の初出は1110年頃、北宋の国定処方集である『和剤局方』だそうです。
で、「温清飲」の初出は一貫堂医学について 2で紹介した『万病回春』(1587)です。
ということは、瘀血証体質の通導散も、解毒証体質の諸薬の大本である温清飲も、出典は『万病回春』ということになります。
また、臓毒証体質の防風通聖散も、『万病回春』の中には何カ所も出てきます。
森道伯先生も、江戸期の和田東郭や原南陽と同じように、中国明代、龔廷賢の書物である『万病回春』をかなり読みこんでいたことが分かりますね。
多くの名医が読んだ『万病回春』、現代で東洋医学を行う者として、避けて通れないでしょう。
長くなったんで続く
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2018.09.10
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これまでのお話・・・
一貫堂医学について 2 参照
・・・さて今日は、森道伯の一貫堂医学の言う三大体質の二つ目、「臓毒証体質」について掘り下げます。
「臓毒証体質」とは、風毒、食毒、梅毒、水毒の四毒に侵された体質、だそうです。
この四毒を少し詳しく言いますと・・・、
「風毒」とは、ここではあらゆる病のもととなるようなキツイ邪気のことを言っているようです。
「食毒」とは、そのまんまですが食べ物の毒、それも急性の中毒ではなく、慢性の毒とも言えるもので、要するに肉食中心の偏った食生活や、
暴飲暴食の過剰な栄養だったり、また現代であれば加工食品や添加物などによる 内臓機能の低下なども広く含まれる考え方だと思います。
「梅毒」というのは性感染症で有名なあの梅毒で、現代では残念ながら増加傾向だそうです。
「水毒」というのは腎機能が低下して不要な水分の排出が滞って、水滞(浮腫みも含む)が起こったもののことを指しているようです。
この「四毒」が体内に蓄積し、単一に、あるいは複合して、健康を害しているようなものを、「臓毒証体質」と名付け、
これらすべてを「防風通聖散加減」で治療していた、というワケです。
この体質のものは、ガッチリしていて若いうちは丈夫だが、壮年期になると癌や脳卒中、痔疾や腎疾患を起こすと言われます。
診断は望診、脈診、腹診であり、
皮膚は黄白色、脈は実脈や堅い脈が中心で、腹は全体が堅いか、あるいは全体が軟満しているか、
だそうです。
防風通聖散は、以前このブログでも紹介した金元の4大医家の一人である劉完素(1120-1200)の著作である『黄帝素問宣明論方』(1172)に出て来る方剤で、
もともと熱のこもりやすい人が風寒邪に罹患し、「表裏ともに実」になったものに使う方剤と言われます。
実はこれ、近年になって”やせ薬”みたいに言われて、「ナ〇シトール」だの「コッコ〇ポA」とかいう商品名がついて製品化されています。。。
(しかし、痩せたいからといって安易に使用するのは、危険極まりないので絶対にやめましょうね。)
まあ、こういうものがよく売れるぐらい、安逸過度や暴飲暴食で実熱証、毒素をため込んでいる人が多いというのは、森道伯先生の晩年の、
第一次大戦後の、未曽有の好景気であった大正~昭和初期の日本と似ているのかもしれません。
しかし、私もたまにのぞかせていただき、勉強させていただいている、山口の村田漢方同薬局の村田恭介先生は、そのブログの中で、
「特殊な状況においてしか使う必要のない、まして現代においては全く必要のない、支離滅裂に近い配合」
と断じておられます。(笑)
・・・うーん、この辺、漢方家からしてどうなんでしょうね。
まあ、防風通聖散の方意を見ると、表は風邪邪実、裏は腸胃の湿熱の実、で、表は疏風して裏は清利湿熱で、表裏双解剤、というわけですから、鍼ではどうやるのが近いでしょうかね。
外関や合谷やりながら、上廉で下すような感じ?しかも養血や和中の穴処も加える??
あるいは上腹部の沈んだ実をややキツ目に瀉すか??
(これだと難易度は高いね。)
まあ、確かなのは、防風通聖散も、単に痩せようと思って長期に服用するなんてのは、バカ丸出しだね。(苦笑)
毎日、メシ減らして走ってりゃ、絶対痩せます。
漢方薬のそういう使い方を聞いたら、天国で森道伯が泣いているでしょうな。
続く
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2018.09.08
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先日、森道伯先生を紹介しました。
森道伯という人物 参照
森道伯先生が晩年唱えたと言われる、「一貫堂医学」。
現代にまで、影響を与えております。
これは簡単に言うと、
「体質を3つに分類し、5つの処方を上手に使い分ける」
という医学なんだそうです。
3つの体質というのは、
① 瘀血証体質(瘀血をため込んでいるタイプ)
② 臓毒証体質(風毒、食毒、梅毒、水毒の四毒をため込んでいるタイプ)
③ 解毒証体質(肝臓の解毒能が低下しているタイプ)
の3つであり、この「体質」そのものを改善することが、病の根本的な治療に重要なのだ、という考えであり、5処方というのは
①には通導散、
②には防風通聖散、
③には、幼少期には柴胡清肝散、青年期には荊芥連翹湯、青年期以降には竜胆瀉肝湯、
を、それぞれ加減して用いる、というやり方が根幹だそうです。
(上記はどれも現代も用いられる、有名な処方です。)
・・・まあ、こう簡単に言ってしまうと、いかにもマニュアル漢方みたいですが、森先生はおそらくこの簡単な理論ベースを、加減方で縦横無尽に使い分けていたんでしょうね。
以前も紹介しましたが、江戸期、和田東郭(1742-1803)が『蕉窓雑話』の中で弟子たちに
「方を用ゆること簡なる者は、其の術日に精し。方を用ゆること繁なる者は、其の術日に粗し。世医ややもすれば、 すなわち簡を以て粗と為し、繁を以て精と為す、 哀しいかな。」
これを簡単に意訳すると、
「薬をシンプルに使う先生はうまい!薬を煩雑に使う先生はヘタ!世の医者は、煩雑な処方を有難がる向きがあるけど、哀しいことだ。」
というほどの意味でしょう。
「四逆散」というお薬 6 参照
まあ、あれやこれやと、治療を煩雑にやる先生や、それを尊敬するような風潮をクサしている訳です。
和田東郭も森道伯も、著述を好まなかったという点は似ていますし、少数の処置(処方)でバチッと効かせるという考え方は、北辰会の一本鍼にも通じますね。
なんだかシンパシーを感じる先生達です。
(蓮風先生はメチャメチャ本書いてるけど。笑)
せっかくなんで、一貫堂に関して、もう少し掘り下げましょう。
続く
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2018.08.19
清明院では現在、院内診療、訪問診療ともに多忙のため、
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婦人科疾患と、呼吸器疾患を同時に持っている患者さんも少なくない。
患者さんは、西洋医学の婦人科で薬をもらい、呼吸器科で別の薬をもらい、なかなかコントロールできなくなると、ようやっと清明院に来る。
こういう患者さんをよく診ます。
(苦笑・・・最初の段階で来てくれれば、どれだけ楽か。。。)
これ、東洋医学的には、症状や場所が違うだけで、同じ病気であると考えられることも少なくない。
・・・で、よーく診たてて、吟味した経穴に一本鍼をすると、両方とも良くなったりする。
いやーたまらんね、東洋医学、鍼灸は。(゚∀゚)
かつて、2002年に中国でSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行し、多くの死者も出て、かのスペインかぜの様に大流行し、パンデミックを起こすことが危惧された時、
広州中医薬大学の鄧鉄濤(とうてっとう)先生が、東洋医学で立ち向かったという話を以前書きましたが、この時に鄧鉄濤先生が使った「仙方活命飲(せんぽうかつめいいん)※」という薬は、
主に癰瘍毒(ようようどく:キツイ炎症を伴うオデキ)の薬です。
(ちなみにスペインかぜの時も、日本では日本人の漢方家である森道伯先生が大活躍した話がありますね。これもそのうち書きましょう。)
※仙方活命飲・・・『校注婦人良方』が出典。効能は清熱解毒、消腫潰堅、活血止痛。主治は癰瘍腫毒初起。金銀花・陳皮各9、白芷・貝母・防風・赤芍・当帰尾・甘草・皂角刺・穿山甲・天花粉・乳香・没薬各3
また、知り合いの漢方家の先生に伺うと、五味消毒飲(※)などもオデキの薬ですが、これを用いて呼吸器疾患や婦人科疾患を治す、なんてことも普通にあるようですね。
※五味消毒飲・・・出典は『医宗金鑑』、効能は清熱解毒、消散疔瘡、主治は各種疔毒、癰瘡癤腫。金銀花15、野菊花・蒲公英・紫花地丁・紫背天葵子各6
因みに、
「オデキの薬で、なんで肺炎が治るのか」
という問題に関しては、北辰会機関誌『ほくと』57号にて蓮風先生が解説して下さっているので、そちらをぜひ参照してください。
〇
呼吸は、律動性が大事。
月経も、律動性が大事。
それが乱れないのをもって、良しとする。
この律動性が、色々な臓腑経絡の働きで担保されている。
また、呼吸器は、ある意味常に、外界と接している粘膜。
女性生殖器も同様に、常に外界に接している粘膜。
肺は鞴(ふいご)のように袋状の形態、女子胞(子宮)は、懐胎するために袋状の形態。
どちらも大きく伸縮します。
肺の臓の隣(下)には、陽臓である心の臓がある。
女子胞の隣(上)には陰臓である腎の臓がある。
また、呼吸器は体幹の最も上部に位置し、女性生殖器は体幹の最も下部に位置する。
働き、形態が似てて、位置的には上下の陰陽。
この上下の気の交流も、色々な臓腑経絡の働きで担保されている。
肺の臓がある上胸部には、宗気のもととなる天空の清気が充満しており、女子胞がある下腹部には、胎児を妊養するための陰血が豊富に充満しています。
この意味でも、気血の陰陽。
機能的、形態的には相似性があり、位置的、環境的には陰陽関係にある。
これらが、同じ考え方で治療できる。
冒頭で述べた、オデキの治療と同じように、「内から外へ」と邪熱を誘導、発散させて治すのが、常套手段、ということ。
・・・まあ何て言うか、東洋医学最高。(゚∀゚)
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2015.06.13
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これまでのお話
「四逆散」というお薬
「四逆散」というお薬 2
「四逆散」というお薬 3
「四逆散」というお薬 4
「四逆散」というお薬 5 参照
さて今日も、四逆散に関する、別の先生のご意見。
今日は矢数道明(やかずどうめい 1905-2002)先生です。
この先生も、大塚敬節先生や奥田謙蔵先生と並んで、1905-2002の、実に96年間を生きた、近代を代表する漢方家の一人です。
亡くなる前年の、95歳まで外来診療を続けておられたことは有名です。
(スゲエ!!(;゚Д゚))
この先生の診療所(温知堂)は清明院のすぐ近く、新宿にあり、現在もご遺族によって引き継がれております。
この先生の師匠である森道伯先生(1867-1931)も、後世派の一派である一貫堂医学の創設者として、たいへん有名です。
この森先生も素晴らしい先生なので、そのうち紹介したいと思います。
(みんな本当にスゴイので、紹介し始めたらキリがないですな。。。(苦笑))
〇
まあともかく、矢数先生はその著書『漢方処方解説』の中で、
「四逆散は大柴胡湯と小柴胡湯の中間のものに用いる。」
と述べ、
「大柴胡湯よりも虚証で、熱状が少なく、肋骨下の緊張がやや弱く、小柴胡湯よりは少し実証で、お腹は肋骨下の緊張、腹直筋の緊張が中心で、
腹直筋の緊張は臍の周囲まで及び、手足のキンキンに冷えてる者や、癇の昂ぶる神経過敏症の者に用いる。」
と述べ、臓腑では
「肝の臓の実と、脾胃がやや虚。」
と述べ、たいへん応用範囲が広い薬であることを教えています。
まあ、矢数先生の解説の書き方としては、四逆散が大柴胡湯の変方だと述べた、和田東郭先生や浅田宗伯先生の見解を尊重しつつ、近代の湯本求真先生や龍野一雄先生の論を引いて、
大柴胡湯と四逆散の使い分け方、とりわけ、腹診における見分け方に重きを置いた、解説の仕方をしております。
この観点も、また重要です。
大塚先生の見解に、少し補足を加えた、という感じですね。
「四逆散」というお薬 7 に続く
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