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これまでのお話
東洋医学は宗教か。 8 参照
さて、どんどんいきましょう。
◆吉益東洞先生の医学
前回、日本や諸外国でも、医学と宗教はもともと一体のものであったのが、近代になるにしたがって「体」の問題は医学が、
「心」や「魂」の部分は宗教が、という風に役割分担が出来てきた、しかし「医学」と「宗教」の距離は今でも近く、
今でもややあいまいな部分すらある、というお話をしました。
しかしながら、我々は現代日本の医療人、社会人です。
いくら日本人は様々な宗教に対して鷹揚であるとは言っても、近年の一部のカルト宗教に対するマイナスイメージが、
総合的、全体的には強いでしょう。
しかも、東洋医学、特に鍼灸医学は、国民皆保険制度の中でも立場が弱い。
そうした中で、社会人、医療人、東洋医学の鍼医者として、どうあるべきか。
患者さんが安心してかかれるように、また、これから東洋医学を学ぶ人が安心して学べるようにしていかなくてはいけないと思います。
ここで、一つの参考として、以前私も墓参し、このブログ上で人物紹介した、江戸期の名医、吉益東洞先生の考え方を紹介します。
墓マイラー3 参照
(そう言えば僕の墓マイラーのきっかけになった、蓮風先生の勧めも、吉益東洞でしたね。何か意味があるのかもしれません。。。)
この先生は、当時としては革命児的な存在で、かなり極論をぶって、医学界に論争を起こしたことでも有名なんですが、僕が好きなのは、
「俺たちは医者だろ?治してナンボだろ??」
という彼の主張です。
ゴチャゴチャと理屈ばっかりこねて、お高くとまって、結局は治せない、当時の医者を、バッサリと断罪したのです。
1759年、彼が57歳の時に書いた『医断』という本は、当時の医学界に大論争を巻き起こしました。
そして10年後の1769年、彼が死の3年前、67歳の時に書いた『医事或問』という本は、その論争を受けて、反論を十二分に咀嚼し、
彼自身の考えをまとめた本です。
そしてその内容は、『医事或問』が出版されてから約150年後、当時の政府によって東洋医学が排斥されていた、東洋医学にとっての暗黒期である明治の末期に、
和田啓十郎先生に大きな影響を与え、『医界之鉄椎』という本の出版に連なり、それ以降の漢方復興運動の端緒となりました。
今から250年前に書かれた本が、今から100年前の超アツい先生に影響を与え、それが現代でも大きな影響を持っているとは、
歴史って素晴らしい。
僕らでは想像も出来ないようなアツいアツい先生たちが、ちょっとづつちょっとづつ積み上げて、作って来たんですよ、今を。
それをよくよく考えるべきですね。
・・・まあ前置きが長くなりましたが(苦笑)、そこに何が書いてあるかというと、問答形式で色々なことが書いてあるのですが、一番有名なのは
「生死は知らぬ。」
という吉益東洞の文句でしょう。
これは、吉益東洞の医学の核心部分とも言われます。
普通に聞いたら、
「え!?なんで?医者なのに??」
と思う人が多いと思います。
(当時もそう思う人は一定数いたようです。)
これを簡単に略して言えば、
「生死というのは天が司るところで、医者がこれに拘ったり恐れたりすると、迷ってしまって正確な治療が出来ない、
しかし、これが本当に理解できると、迷うことはない。本当の医療が行える。これを心に覚悟しないものは、医者とは言えない。」
とまで説きます。
患者さんの死を前にして、妙にうろたえたり、どうにか死なないようにと考えて、治療でないことをするならば、それは医者ではない、というのです。
生き死にの問題は天、病気治しは医者、と喝破したわけです。
いわゆる「姑息的な対症療法」でお茶を濁すことが蔓延する現代にも、非常に重く響く、厳しい言葉だと思います。
(まさにこの考え方が”医界之鉄椎”の引き金になる訳です。)
でも、中途半端な医者がこれを教条にしてしまうのは、実に危険なのでご注意を。(笑)
こういうスリリングさ、主張の激しさが、吉益東洞の魅力でもあります。
続く
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