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これまでのお話
東洋医学は宗教か。 7 参照
さて、どんどんいきましょう。
◆宗教と医学医療の関係性
前回書いたように、東洋医学も、『黄帝内経』以前はもともと巫祝(ふしゅく:呪い医療)が中心でした。
(もちろん『黄帝内経』以降も、無くはなかったようですが。)
中国は、儒教、道教、仏教という、中華三大宗教が有名で、医者ももちろん、人の生き死にを相手にする以上、各時代で、それらの影響を多分に受けているでしょう。
日本でも、江戸時代までは「僧医」あるいは「儒医」といって、禅宗のお坊さんや、儒家が医師を兼ねることが普通のことでした。
北辰会が用いる「腹部打鍼術」の創始者といわれる夢分斎先生は、臨済宗の禅僧でありますし、このブログでも紹介した江戸期の多くの名医は、
儒家も兼ねた儒医であります。
日本で医療の担い手は医師が、宗教の担い手は僧が、という風に明確に分かれたのは明治以降ではないでしょうか。
因みに中央アジアや、南アジア諸国などの中には、治療と呪術が混然一体となって行われている地域は、現在でも存在します。
(シャーマンドクターとか、ウィッチドクター、ってやつね。)
また、西洋医学も、西洋社会全体の世俗化、近代化に伴って、もともとはキリスト教、神学の一部であったのが、
徐々に独立し、宗教的色彩が脱色されてきた歴史があるそうです。
現在でも、遺伝子治療や生殖医療や終末期医療など、最先端の西洋医学が、新たな治療法の一般化を論議する際に、
倫理的に大きな問題になることの一つに「宗教的価値観、生命観」があります。
このように、もともと、医学と宗教は別れてはいなかったのですが、大まかに言えば、近代科学が発達し、それに伴って医学(西洋医学)が発達し、
細菌だのウイルスだの、異常細胞だのと、病気の原因が科学的、顕微鏡的に徐々に明らかになってくるにつれ、また、人体の解剖学や、外科手術の道具や技術が進歩するにつれ、
体と心と魂の三位一体の人間観で考えた場合、「体」の問題は医学が、「心」や「魂」の問題は宗教が、それぞれ別々に担うようにと、変化、
変遷していったという、歴史的背景があります。
(体に関する学術が急激に巨大化していったことと連動して、でしょうね。)
それが面白いことに、高度に文明が発達した現代になって、医学が担う「体」の範疇を、やっぱり宗教の倫理観が一定程度差配する、というように、
宗教と医学は、やはり切っても切れない関係性にある、と言っていいと思います。
(・・・というか、僕らから見れば、体と心と魂が、切っても切れない関係なんですよ、そもそもネ。(笑))
ここで、医学も宗教も、相手にする対象はもちろん「全人間」なんですが、医学医療が担うのは人体に起こる「病気」の解決、緩和、予防ですから、
その対象は病人や半病人が主になりますが、宗教が担うのは「生きる上での葛藤や悩み苦しみ」の解決、緩和、予防であり、また、信者の「行動の規範、価値基準」までも指導するものである、
と、分けて考えるなら、対象としている範疇と目的が、宗教の方が大きく、広いようにも見えます。
宗教が、医学医療をスッポリと包み込んでいるように思えます。
しかし、
「人間が悩み苦しんでいる状況、それは即”病気”である」
ととらえるならば、医学医療が対象とするものも、宗教が対象にするものと、限りなく近くなっていきます。
「生即死」とか、「生きることは死ぬことである」、とはよく言われますが、僕ら鍼灸師も、死の場面に深くかかわることがあります。
(全然関係ないけど、むかし実家に千葉敦子さんの『よく死ぬことは、よく生きることだ 』というタイトルの本が、母親の本棚においてあり、
このフレーズが、小さい頃から妙に僕の脳裏に焼き付いています。)
僕の短い臨床経験の中でも、長年往診で在宅医療をやっていたこともあり、数多くあります。
また、外来、往診問わず、どう考えても間近に迫る死を回避できない、どうにもならない患者さんに接することもあります。
医学は医学、宗教は宗教、と割り切って考えている僕ですが、そういう時に、「治療」という概念の範疇を押し広げて、そういう人、
あるいはそのご家族からどうやって「抜苦与楽」するのか、単純に体だけ診ていていいのか、という考えが頭をもたげることも、
無くはないです。
続く
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