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これまでのお話
東洋医学は宗教か。 6 参照
さて、どんどんいきましょう。
◆「魂」の存在をどう考えるか。
私が2008年頃から講師を務めさせていただいている、鍼灸学術研究団体である北辰会は、その理念の中に、
「東洋医学で、患者さんの心と体と魂を救う」
と掲げております。
北辰会の理念は こちら
ここだけを読んだら、多くの人は
「いやこれ、宗教じゃん」
という感想を持つかもしれません。
(苦笑・・・私の身内(理系)なんかはそうでした。)
よく、一般人や、無知な鍼灸学生などから侮蔑、嘲笑気味に”宗教臭い”とか言われがちな東洋医学、鍼灸医学の中でも、
北辰会は正直”特に”だと思います。(苦笑)
まあ近年になって、そのイメージもだいぶ払拭されてきたようにも思いますが。
この理念に関して、僕が分かる範囲で、簡単に説明致してみます。
北辰会では「心・体・魂」という三位一体の生命観を持っていますが、この「魂」というものの存在に、蓮風先生は若い時分から非常に興味を持っていたようです。
これは非常に多義的な言葉だと思いますが、北辰会の理解を平たく言えば、人間の持つ、心(精神)の内面の、もっともっと深い部分(在意識的、本能的なもの)
を包含し、意識や時間や空間すらも超越した、霊的で、スピリチュアルな部分、というか観念(想念というべきか。)のことです。
北辰会方式の鍼灸治療では、患者さんをやる時に、そこまで射程に入れなければいけない、実際に入れられる、と、理念に掲げた訳です。
北辰会、蓮風先生の言う「魂」を、もっと細かく、もっと分かりやすい言語でもって説明した場合、どういうものであるかについては、
蓮風先生のブログや、北辰会機関誌の『ほくと』の中に、講義録として、ある程度掲載されています。
(興味のある人は、まずそれを一通り読んでもらったら宜しい。)
ブログについてはこちら(『鍼狂人の独り言』の”魂”を含む記事)
北辰会が、その前身である大阪経絡学説研究会から始まって、昭和54年(1979年)に正式に北辰会として設立、発足し、その後、
徐々に数百人規模の大きな団体となっていった、昭和40年代~60年代というのは、戦後の復興~高度経済成長の極みから、
急転直下のバブル崩壊、そしてそれ以降の就職氷河期、という極端な時代背景があり、日本人が経済的、物質的に非常に豊かになっても、
心の内面は本当は満たされない、ということを思い知り、物質的に豊かな時代も、厳しい時代も、結局は精神面の不満足、不安、
不満などのストレスから、あらゆる病になる人も多く、それを解決するために、そういう患者を診療する側の医療従事者はもちろん、
一般人も含めて、当時は社会全体にそのような
「目に見えない、人間の内面のディープで不可思議な世界への探求」
を志向する空気が、ある意味で非常に盛んだったのではないでしょうか。
(この時代のこういったムーブメントを指して、新宗教ブーム、オカルトブーム、なんていう言葉もあります。)
そうした時代背景もあり、蓮風先生をはじめ、北辰会の諸先輩も、患者さんを治療する日々の中で「魂」というものの存在を強く意識するようになっていったのでしょう。
ただ、北辰会が宗教団体と違うのは、魂を救うのに、宗教的な呪い的な儀式などではなく、あくまでも『黄帝内経』に基づく
「東洋医学(中国伝統医学)の論理でもって」
しかも
「鍼灸治療でもって」
それをやる、むしろそれをするのは鍼灸じゃないとダメなんだ、というスタンスを堅持しているというところが重要だと思います。
だから、北辰会はどこまでいっても宗教団体ではなく、東洋医学の学理を学び、鍼灸治療の技術を磨く、「鍼灸学術団体」なのです。
もう一つ大事なのは、一般的な東洋医学、つまり『黄帝内経』に端を発し、立脚する中国伝統医学の世界には、ほとんど「魂」であったり、
「霊的なもの」の存在というのは説かれていません。
約2500年くらい前に成立したと言われる東洋医学のバイブルである『黄帝内経』よりもさらに以前は、巫術(まじない)が医療の中心であったようで、
そこから『黄帝内経』に至って、「気」と「陰陽」という自然哲学に立脚した、「臓腑経絡学説」に基づく、科学的な医学医療が確立され、
展開されていった、という流れがあります。
『黄帝内経』は、「呪い医療」の詳細な説明や実践方法の紹介は、意図的に排除し、避けた訳です。
(ところどころ、仄めかしてはいますが。)
ですので、人間存在を考える時に「魂」というものの存在を「あるもの」として意識し、それをどうこうしようとするならば、その人間観自体は、
東洋医学的というよりも宗教的、呪い医療的にはなります。
なりますが、それをどうこうする際の「論理と手法」が徹底して東洋医学的、中国伝統医学的であるならば、むしろそれこそが真の東洋医学なんではないでしょうか。
(『黄帝内経』以前の歴史をも踏まえている、という意味で。)
東洋医学の世界観というのは「気一元」です。
この世界、万物、森羅万象は「気」から出来ている、と説きます。
であれば、上に述べた「魂」も「気」で出来ている、となります。
その「気」に、直接働きかけ、操作するべく考え出されたシンプルな道具が、鍼灸なのです。
だから当然、気の流れを調えることで、結果的に「魂を救う」ことも、鍼灸治療の射程圏内に入ります。
ある意味単純明快であり、悪く言えばルーチンワーク的な「How to 治療」みたいなものがいつまでたっても跳梁跋扈する鍼灸業界において、
北辰会、蓮風先生が、この難しい問題を中途半端に扱わず、変にごまかさず、真正面から理念として述べている姿勢を、
「僕なんかは」リスペクトしている訳です。
要は日々の鍼灸治療の実践を通じて、真剣に人間学をなさっているわけで、その一つのあり方の主張な訳です。
ただし、あまり変にこういうところを強調したり、初学者や素人に対して、伝え方を過てば、妙な誤解のもとになり、話が前に進みにくくなる面もあります。
この辺のバランスは、教わる側のリテラシー、理解力、スタンスの問題も絡んでくるので、現代日本社会の中で、東洋医学教育に携わるものとして、
大変難しいところだとは常々思っています。
続く
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