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これまでのお話・・・
肩こりと東洋医学
肩こりと東洋医学 2
では、続きいきます!!
◆肩こりは日本人のみ!?
前回、英語では肩こりに相当する訳語はなく、中医学の分類においても、イマイチ的確な概念がない感じがする、というお話をしました。
実はフランス語や、ドイツ語にも、なかなかいい訳語、概念はないようです。
ではいよいよ、この「肩こり」という、実にありふれた症状は、日本人のみのものなのか!?という思いがよぎります。
これに関して、栗山茂久という先生が、『歴史の中の病と医学』という書籍の中で、「肩こり考」という論考を述べており、非常に参考になるので紹介します。
もともと、「肩がこる」という言葉(動詞)は、夏目漱石の『門』が初出だったそうで、他には5000円札の樋口一葉の作品の中にも
「肩がはる」
と出て来るそうですが、明治以前の文献にはこの表現はみられないそうです。
しかし、「肩がこる」ということを示しているのであろうと思われる言葉であれば、江戸時代の諸文献にもみられるようです。
江戸時代の文献では、「肩凝り」のことを「痃癖(けんぺき)」と呼んでいたようですが、この「痃癖」という病名は、もともと中国では、
「脇腹が弓の弦のように突っ張って痛むもの」
という意味だったようで、我々が言う”肩こり”とは、全く異質のものでした。
これに関して、なぜこのような誤用がなされていったのか、というところで、栗山氏は、当時の社会状況を挙げています。
徳川幕府は100年以上戦乱のない平和が続き、安逸な状態が続いていたこと、また、士農工商という身分制度がキッチリと分類され、経済的にも
”スムーズな循環”
が重要視される社会構造だったことから、
”そのスムーズな循環が滞る”
ことを非常に「悪」と意識する土壌があったのではないか、と考えておられます。
安逸も、結局は気の滞りを助長しますしね。
江戸時代に『養生訓』というたいへん有名な本を書いた貝原益軒(1630-1714)も、病の主たる原因として、
「虚」と「滞り」
を挙げております。
また、江戸時代のたいへん有名な医師である後藤艮山(1659-1733)も、「一気留滞説」を掲げ、その門人である香川修庵(1683-1755)も、
その主著である『一本堂行余医言(いっぽんどうこうよいげん)』の中で、一巻で総論を述べた後に、二巻では滞りの病である「癥(ちょう)」について述べています。
(貝原益軒、後藤艮山、香川修庵についても、そのうち紹介しましょう。)
当時の医者たちが、いかにこの「滞り」に注目していたかがよく分かりますね。
人体における万病の元としての「気の滞り」に着眼すると、その身体表現としての「肩こり」に自ずと注目するのは、イメージとしてよく分かります。
(まるで現代ですよね)
当時の日本人にとっては、そういう社会的な状況が背景にあり、「痃癖」の、”弓の弦のように張った”という表現が、身体感覚としてしっくりくるのは、
いわゆる日常的な「肩こり」だったのかもしれませんね。
続く
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