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一貫堂医学について 9(矢数格(道斎)先生の治療)

2018.09.17

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これまでのお話・・・

 

 

墓マイラー 52 森道伯先生

森道伯という人物

一貫堂医学について 1(三大体質五大処方)

一貫堂医学について 2(瘀血証体質について)

一貫堂医学について 3(臓毒証体質について)     

一貫堂医学について 4(解毒証体質について)

一貫堂医学について 5(解毒証体質の続き) 

一貫堂医学について 6(温清飲について)   

一貫堂医学について 7(スペインかぜの治療) 

一貫堂医学について 8(感染症と東洋医学)   参照

 

 

 

一貫堂医学が今日まで大きな影響力を持っている原因の一つとして、昭和漢方界の中心人物であった矢数道明先生と、その兄君である矢数道斎(格)先生が、

 

創始者・森道伯先生の弟子であったことが挙げられます。

 

 

因みにこちらが矢数道斎(格)先生

 

 

矢数格:写真:☆☆☆

 

 

↑↑ インパクト満点、一度見たら忘れないお姿ですね。

 

(矢数芳英先生(道斎先生の弟君である矢数道明先生の御令孫)よりご提供いただきました。)

 

 

矢数格先生は明治26年(1893年)茨城県生まれ、はじめ海軍の軍人を志し、中学に入るも、スパルタ式の無茶苦茶な運動をやり過ぎて、3年の時に体を壊し、

 

マラリアに罹り、生死を彷徨う。

 

 

この時、有名病院から専門病院から、どの医者に行っても一向に良くならず、何を食べても、何を飲んでも吐いてしまい、全く飲まず食わずの状態が続いており、

 

終いには吐血して、余命宣告までされる始末だったようです。

 

 

そこで森道伯先生の噂を聴き、藁をもすがる思いで、骸骨のようにやせ衰えた体で上京し、診察を受けると、僅か2週間で、天丼が食えるほどに回復したそうです。

 

 

因みにこの時に、

 

「この薬が胃に入るようであれば治してやる。」

 

と仰って、森先生が使った方剤は五積散だったそうです。

 

(そして五積散の出典は『和剤局方』です。)

 

 

マラリアというのは東洋医学では「瘧(ぎゃく)」とか「瘧病」とよんで、古くは『黄帝内経素問』「瘧論(35)」「刺瘧(36)」の中で詳細に認識されていますし、

 

『金匱要略』の中にも出てきますし、その後の歴代医家も多くの研究を残しています。

 

 

現代中医学でもマラリアを様々に分類し、治療法を提示していますが、「五積散」という選択肢は僕が探した限りでは提示がありませんでしたので、

 

森先生のオリジナル運用法だろうと思います。

 

 

よく名医はこうやって、西洋医学的な病名だの、経過だの、症状の軽重だのに振り回されることなく、自分がよく理解している方剤をシンプルに使って、

 

きれいに治しますね。

 

 

五積散は、風寒外感+内傷寒湿の薬で、解表温裏剤と呼ばれるグループです。

 

 

因みに、2015年にノーベル医学・生理学賞を受賞した中国人の屠呦呦(ト・ユウユウ)先生の研究は、中国伝統医学で使われている生薬にヒントを得た、マラリアの治療薬「アルテミシニン」の研究でした。

 

(因みにこの時一緒に受賞したのは寄生虫薬イベルメクチンで有名な日本人の大野智先生です。)

 

 

 

その後、元気になった矢数格先生は田舎に帰り、学を諦めて自然の中で農作業をする暮らしを4年ほどしていましたが、森先生のような漢方医を志そうと一念発起し、

 

22歳で千葉医専(現千葉大医学部)に入学しました。

 

 

当時は、漢方医の道を志すと言うと、学友から

 

「お前、頭がおかしいんじゃないか?」

 

と言われたそうです。

 

(苦笑・・・この時、矢数君を助けようと、署名が集まった、なんていうエピソードもあるそうです。)

 

 

まあ今で言えば、突然変な宗教に洗脳されたとか、精神に異常をきたしたとか思われるくらい、東洋医学の評判は地に落ちていたのでしょう。

 

 

医学生3年の時、再び無理をして体を壊し、肺炎まで起こし、入院する羽目になってしまいました。

 

 

その時に友人が森先生に電報を打ってくれて、知らせを受けた森先生は、夜中に東京から千葉の病院まで薬を持って往診に来てくれたそうです。

 

 

 

そして、病院のストーブで漢方を煎じて、飲ませると、

 

「こんなところにいたら殺される。わしが家に連れて行って看病する。」

 

と言って強引に矢数先生を東京の家に連れて帰ってしまい、本当に治してしまいました。

 

(このエピソードで思うのは、森先生は、矢数先生の才能に気付いていたんだと思います。)

 

 

この時、森先生が使った処方は升麻葛根湯長ネギを加えて煎じたものだったそうです。

 

 

升麻葛根湯は、後にスペインかぜにも使った処方でしたね。

 

(しかしこの場合は長ネギ(葱白)を入れているところもポイントかもしれませんね。)

 

 

升麻葛根湯の出典は宋代の『小児薬証直訣』(1119)の付録である『閻氏小児方論』であり、効能は辛涼解肌、透疹解毒であり、葱白は長ネギの白い茎の部分のことで、

 

散寒解表、通陽の効能がありますので、肺炎の熱をとり、表は温め、内外に陽気を通じさせる、というイメージでしょう。

 

 

この信念、ハンパないですね。。。(゜o゜)

 

 

僕も現在、北辰会や東鍼校など、東洋医学教育に”端くれ”として携わっていますが、何といっても、この医学に本気になれるのは、こういうリアルな経験、感動が一番いいですね。

 

 

森先生の中では「治るか治らないか」に関する明確な物差しがあり、それを運用しただけのことでしょうが、これをしっかり持っているかどうかが非常に重要だと思います。

 

 

森先生は平生、

 

「わしに西洋薬を使わせたら上手に使ってみせる。」

 

と言っていたそうで、自分なりの評価の物差しがハッキリしていてブレなければ、どんな薬、どんな処置でも的確に分析できる、という意味からの言葉だと思います。

 

 

次回、森先生の臨床エピソードで「僕的に」印象的だった話を紹介して終わりましょう。

 

 

 

続く

 

 

 

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