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・・・さあ、そろそろ再開しましょう。
これからお話しする「胃の腑」についてのお話は、とても重要です。
東洋医学では、生命を考える上で、この「胃」という腑の働きを、「脾」とセットで大変重要視しています。
何度も言いますが、東洋医学のいう「胃の腑」というものは、西洋医学の言う「胃=stomach」とは違います。混同なきよう。
西洋医学では、「死」を心肺停止と瞳孔散大からの全細胞の活動の停止、と考えます。
(もちろん死の定義については法律的、生物学的など、色々な解釈や議論があります。)
そしてそこに至るプロセスにおいて特に重要視される臓器は「心臓=heart」であったり「脳=brain」ですよね。
語弊があるかもしれませんが、東洋医学では、そうは考えません。
最後まで、五臓六腑の正常な働きに裏打ちされた、「陰陽のバランス」を重要視します。
「陰陽(いんよう)」って何ですか?
「五臓六腑(ごぞうろっぷ)」って何ですか? 参照
そしてとりわけ、その中でも重要なのが「脾胃」であります。
・・・昔、とあるパーキンソン病(脳の病気で、体が震えたり、筋肉がこわばって、徐々にあらゆる運動が出来なくなってしまう病気)の患者さんがいました。
その方は80過ぎの男性で、奥様と二人暮らし。
昔から病院が嫌いな方でしたが、鍼をすると震えが止まり、ご飯がおいしく食べられる、ということで、信頼していただき、亡くなられる寸前まで診させていただいたことがありました。
その方は最後、徐々に徐々に筋肉が硬直していき、起き上がることすら困難、だんだんと食べ物を噛んだり飲み込んだりすることもままならない状況になっていきました。
その時、病院の医師は、「胃ろう(胃に管を通し、その管から胃に直接栄養を入れる方法)」をご本人と奥さまにすすめてきました。
それをすれば、奥様の介護の負担が減るし、ご本人も長く生きられるし、誤嚥(ごえん:誤って飲み込んだものが気道に入ること)して肺炎を起こす危険性もないと。
しかしご本人は、断固拒否。
「そんなことまでして生きてるんなら、死んだ方がマシだ!俺がもし喋れなくなっても、そんなこと絶対にするなよ!」
と、奥様におっしゃっていました。
その後、いよいよ喋ることすら難しくなり、流動食をどうにか口にするようになった頃、奥様が病院の先生に、
「胃ろうにして下さい。」
と、”ご本人に内緒で”願い出ました。
無理もないことで、介護の負担があまりにもきつかったんだと思います。
しかし、「検査だから」とご主人をだまして病院に連れていき、胃ろうを開けた翌日に、ご主人は他界されました。
・・・何とも言えない、症例でした。
東洋医学が重要視するのは、あくまでも他の4臓5腑とのバランスの取れた、「脾胃」であり、それは機械的な消化吸収機関、としての「内臓の一つ」のことではありません。
この患者さんの場合も、治療していく上で僕の念頭にあったのは、最終的には「脾胃」の機能をどこまで保てるか、繋いでいけるか、ということでした。
その場合、常に他の臓腑や全身(精神的な安寧も含む)とのバランスを考えていなくてはなりません。
すべての生物が避けることのできない「死」というものに対して、一つの自然現象として、相対的に寛容に受け止めるか、たとえ姑息的であっても、
方法があるのにやらないということを医療の敗北と考えて、いかなる方法であっても、延命の道をとるか。
・・・東洋医学の「胃」と西洋医学の「胃」は違うんです。
次回に続く
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胃ろうのエピソード、愛のあるすごい「深い話」ですね。
胃気が止まることで、「息」が止まり、「生き」が止まる。
ダジャレじゃないけど、そういうニュアンスが近いですね。
それにしても奥さんの献身、旦那さんの死生観・・・。
いんちょう先生、深い貴重な話をありがとうございます。
しむしむさん
コメント、ありがとうございます
この話は、実は後日談があります。ご主人の死から1年ぐらい後、今度は奥様から、
「腰が痛くて歩けないので診に来てほしい。」
と、ご主人が生きておられた時は考えられないような、蚊の鳴くような声で電話があり、僕はその時たまたま忙しかったので、僕以外の先生が往診に行くと、奥様は以前とは見違えるように痩せてしまって、老けこんだお姿になっておられたそうです。
良心の呵責があったんでしょうか。自責の念なんでしょうか。
高齢者の往診に行っていると、「いのち」というものについて深く考えさせられることがたまにあります。